本棚・弐
□侵略者のお仕事
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「…俺、営業スマ〜イルとか出来ないぜェ?」
クルルはカウンターの上のメニューを手で玩びながら言う。
「ふふ、綺麗だから要らなかったんだろう、くるる君は」
要らないよ、と笑う顔中に浮かぶ皺が、重ねた歳と度量の広さを感じさせた。
「ただ髪は括って貰えるかな?」
差し出されるゴムを受け取って大人しく一つに髪を纏めるクルル。
「ありがとう、くるる君」
ギクリとクルルの肩が揺れた。
礼を言われ慣れてないのだとマスターはややあって理解して、また一つ礼を浴びせて微笑った。
「ご注文お決まりでしょうか?」
「あ…えぇと何だったかしら、…私カプチーノで」
「わ私、モカ下さる?」
上品そうな女性客の視線は、メニューの端からちらちらとクルルの容姿を捉える。
「畏まりました。…以上で?」
「あ!じゃあハニースコーン頂いちゃおうかしら、ねえ?」
「ぇ?あ、そうね!じゃあ…」
「お二つで?」
「「ぇ…ええ!」」
少々お待ち下さい、と残してテーブルを去るも、後頭部に二人の視線を感じる。
「マスター、注文」
「ふふ、人気者だね、くるる君。」