本棚
□エゴの名の下に
3ページ/4ページ
クルルは息を飲んだ。
真摯な銀蒼色の目に、二の句が継げない。
ただ、悔しかった。
こめかみを伝う冷汗を、ドロロの指が拭う。
彼が上からどいた時には、もういつもの優しい笑顔に戻っていた。
クルルは、仰向けのまま動かない。右腕で目元を覆った。
「ケロンに居た頃、」
クルルが、呟いた。
「アンタの噂は、よく聞いてた。
若くしてアサシンのトップ。戦争となれば、先陣を斬って、風となる。
必要とあらば、単独で敵陣のド真ん中に乗り込み、勝利を呼び込む。」
ドロロは少し驚いたように、倒れたままのクルルを見詰めた。
彼が、自分を知っていた?
「軍の勝敗なんざ興味はなかったが、
そんな、強いアンタが、
カッコイイとか思ってた。」
初めて、聞く。
自分のことなんか彼は眼中に無いのだと、ずっと思っていた。
ーああ、そうか。
「…ごめんね。」
僕は、彼の『憧れ』を挫いてしまったのだ。
クルルは、何も言わない。
「……でも、これだけは譲れないんだ。」
クルルがやっと上体を起き上がらせて、ドロロを見遣る。
「知ってる。
……だから、アンタは苦手だぜぇ。」