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□お願いだから。
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トラブル&アクシデントは大好物だが、所詮他人事だから愉しいのであって、出来たら自分は渦中に居たくないものだ。
「…気付いていないのか?」
「何がスか?」
「さっきの者たちは、皆お前を見てた。」
「?」
「…ネクタイをもっと締めろ。」
そう言いながらネクタイを直され、開いていた胸元も自然と隠された。
「自覚がないと言うか…」
「?訳分かんね。」
「……」
首を捻りながら、踵を反し先に歩を進めようとするクルルに、ガルルが後ろから声をかける。
「クルル」
「まだ何かあんのかよ?」
うんざりとした様子で振り返るクルルの唇を、何かが掠めた。
目の前に影。ではなくて、ガルルのどアップ。
唇に、当たったのは。
理解したと同時に、周囲からざわめきやら黄色い歓声(?)やらが小さく上げられるのが耳に入った。
「私だけじゃない、ということだ。」
そう言って離れるガルルに、クルルは無言で口を拭う。
何て罵ってやろうかと、負のオーラを纏いながらガルルを見ると、少し不機嫌そうな…、というよりは、拗ねたような横顔。
その表情に拍子抜けさせられたクルル。口元に、思わずいつもの笑みが浮かんだ。