本棚

□お願いだから。
3ページ/5ページ

トラブル&アクシデントは大好物だが、所詮他人事だから愉しいのであって、出来たら自分は渦中に居たくないものだ。

「…気付いていないのか?」
「何がスか?」

「さっきの者たちは、皆お前を見てた。」

「?」
「…ネクタイをもっと締めろ。」

そう言いながらネクタイを直され、開いていた胸元も自然と隠された。

「自覚がないと言うか…」
「?訳分かんね。」
「……」

首を捻りながら、踵を反し先に歩を進めようとするクルルに、ガルルが後ろから声をかける。

「クルル」
「まだ何かあんのかよ?」

うんざりとした様子で振り返るクルルの唇を、何かが掠めた。
目の前に影。ではなくて、ガルルのどアップ。

唇に、当たったのは。

理解したと同時に、周囲からざわめきやら黄色い歓声(?)やらが小さく上げられるのが耳に入った。

「私だけじゃない、ということだ。」

そう言って離れるガルルに、クルルは無言で口を拭う。

何て罵ってやろうかと、負のオーラを纏いながらガルルを見ると、少し不機嫌そうな…、というよりは、拗ねたような横顔。

その表情に拍子抜けさせられたクルル。口元に、思わずいつもの笑みが浮かんだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ