本文

□Voce
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吐息が聞こえる。
真夜中の電話の主は、永い沈黙を守り続ける。
受話器のむこうから、知らない声の群がざわざわと波のように寄せ返す。
なのに、彼の声だけが聞こえない。
息が詰まる。
いつものあの、天井を突き抜けるテンション。
それが欠けただけで異様に胸が騒ぐ。
「清麿…。」
永の寂(しじま)に朦朧として、機械的に言葉を紡ぐ。
「ん…?」
そしてまた、しばしの間。
「スマナイ………。」
絞り出すような言葉を置いて、遮断音が泣く。
“そうか…。”
遠いかの地の沈黙の意味が、騒ぐオレの胸に落ちて、こみ上げる嗚咽が知らず口からこぼれた。
 

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