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□La raccolta
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鍛え上げた肉体がしなやかに舞い、少し遅れて黄金の絹糸が従うように空に流れて色を添える。
虚飾を剥いだ世界は、単純でありながら酷くシビアで、集い競うオリンピアの戦士や、野見宿禰の末裔たちが刹那動きを止めて息を飲む。
しばしの沈黙。歓声が上がる。
耳障りなほどの実況の声を浴びながら、頂点を得た若い男は太陽神のごとくさわやかに、手を差し延べる褐色の闘士と肩を叩き笑い合った。



「…何故おまえがここに居る?」
射干玉の髪の少年は不機嫌色の瞳で、画像から抜け出したギリシア彫像を睨めつける。
「清麿。これは再放送だぞ。」
不穏な空気に動じた様子もなく返す男の風貌は、引き締まった長身、金色の髪、白磁を思わせる肌に紺碧の瞳でさながら童話の王子のようだ。
肌に纏った軽薄な空気さえなければ…だが。
「おまえがお袋と、差し向かいで呑んでる理由を知りたかったんだがな?」
低く静かに言う清麿は、紅蓮を背負い夜叉の形相で更に問う。
「お年賀…に来たんだ。」
それに気圧されたのか、引きつった表情を浮かべる顔はうっすらと蒼い。
「あなたが帰るまで、くつろいでいただいてたのよ。…お持たせでだけど。」
意外にイケるクチらしい母親は、ほんのりと頬染めただけでやわらかな口調に酔いは見えない。
「お年賀だぁ?」
知らず頓狂な声が口を衝く。このガイジンは時折、妙に古風な言葉を知っている。
「松も取れたってこの時期にか?」
「今朝、監督のお宅にお邪魔した時にこれを戴いてね…。」
母国語よりも流暢に綴られる他国語達は、不思議な趣を醸す。
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