本文

□O Sole Mio
1ページ/1ページ

充ち満ちた人工の羊水。
鈍色に輝く硝子のポッド。
満身創痍の彼の人は小波の中、たゆたう胎児のように稚ない面差しを曝して目蕩む。
それなりに見目の良い少年だが、美貌の…と形容するには何やら足りない気がするのは、おそらく、困難に見舞われたときに見せる、折れることのない輝きが失われているせいなのだろう。
「私が、私たちが…必ずおまえを守る。だから…。」
呟く声はその人に届かない。
それでも彼は、唇を噛み締めて凛とした視線で前を見据えた。



春浅い、月のない夜だった。
不可思議な建造物についてのディスカッションを終え帰路をたどる道すがら、彼は問う。
「清麿?」
「うん…?」
呼び掛けに応え、満ちる夜の気と同じ色をした瞳が彼を見やる。
「寒くはないか?」
「…いや。」
春まだ浅い夜の風は、吐き出す吐息を曇らせて、清しい笑顔を霞ませてしまう。
象牙の肌に刻まれた、まだ少年の面差しは凛として、例えようもなく愛(うつく)しく見える。
「なんだよ…気持ち悪いな。」
一途に注ぐ視線に気付いたのか、居心地の悪そうな顔で清麿が問う。
「勝って…生き残ろうな。絶対。」
「おぅ…。」
怪訝げに返す彼に向けて心の中で小さく誓う。
“何があっても私が、おまえのコトを守るから…”
「だから気持ち悪いって。」
困ったように清麿は微笑う。
“この笑顔のためになら、きっと私は何でも出来る。”
彼は表情を、少しだけ引き締めて清麿の視線を正面から受け止める。
そこにいつもの軽薄な、ラテン系男の姿はない。
「…そうだな。負けられねぇな。」
自らに言い聞かせるように、力ある言葉が朗として宵闇に放たれる。
フォルゴレはそれを陶然として受け止めた。



充ち満ちた人工の羊水。
鈍色に輝く硝子のポッド。
満身創痍の彼の人は小波の中、たゆたう胎児のように稚ない面差しを曝して目蕩む。
何ごとにも折れぬまなざしを、今は陰降ろす瞼に閉ざして…。
「私が、私たちが…必ずおまえを守る。だから…。」
呟く声はその人に届かない。
それでも彼は、唇を噛み締め凛とした視線で前を見据える。
“O Sole Mio…清麿。”
初めて出会った瞬間より語ることなく封じてきた言葉に代えて…。

Fine.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ