物書き

□亀と猫
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《小説 亀と猫》


広くも狭くもないお家に、小さな亀と大きな猫がいました。
小さな亀は、生まれてから数カ月。
大きな猫は生まれて数年。小さな亀は、リクガメでヨタヨタと歩いてはキラキラ瞳を輝かせて何にでも触れてみます。
大きな猫は、毛がフサフサでライオンのように威厳があり、滅多な事では動きませんでした。

ある日、小さな亀は大きな猫に聞きました。
「ねぇねぇ猫さん、あの温かくて綺麗な物はなんですか?」
首を長く伸ばして、空を見上げます。
それを横目でチラリと見つめて、けだるそうに猫は言いました。
「人に聞く前に自分で考えてみなさい」
亀はびっくりしてさらに首を伸ばします。
けれど、亀は少し考えて首を引っ込めると、ヨタヨタと歩いていきます。
『行ったか』と冷めた眼差しで見つめた猫は、温かな日差しを受けて眠たそうに喉を鳴らしました。

あれから数分経った時です。
猫の近くからぺたぺたと何かの足音が聞こえてきました。
それは早い足音で、猫の眠気を醒まします。
瞳を開けるとそこには、亀がいました。
甲羅の上に鳥の羽を一枚、乗せて開いている窓に向かって走って行きます。
亀はまだまだ子供で、庭に落ちた事も、空に飛ぶ方法もしりませんでした。
亀はいつものキラキラ笑顔で走ります。
小さな亀にとって、庭へと続く段差や、コンクリートの固さで死んでしまうかもしれません。
それでも亀は走りました。ドンドンドンドン走って、ついに窓に飛び込んでしまいました。

ボフッ

「暖かいなぁ。これが僕の知りたかったものですね」ニコニコ笑顔で笑う亀でしたが、その下から声がかかります。
「違う、お前が知りたかったのは太陽だ」
声に驚き、首を伸ばして下を覗き込みます。

「あれ、猫さん、どうしたんですか?」
「ただの散歩だ」
ぶっきらぼうに話した猫は、ゆっくりと部屋に戻ります。
「そうかぁ、あれは太陽というのですね」
「そうだ」
「けど、猫さんも暖かいです。太陽ですか?」
「違う」
そんなたわいもない会話が、亀には嬉しくて、胸の内側が暖かくなるのがわかりました。
その時から、小さな亀は大きな猫を、太陽だと思うようになったのでした。

おわり
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