01/14の日記

13:16
世界@神の創った組織〜戯レゴトうさぎ〜
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戯レゴトうさぎ

「それじゃあ、僕は寝ます。おやすみ〜♪」
千景さんは、ふらふらと歩いて、部屋に戻った。
私と莉乱さん、刺桜さんはバーに移動し、飲み直すことになった。莉乱さんが頼み込んできたからだ。
千景さんが居ないのは、こちらからすれば嬉しい限りだが、酒はご遠慮したい。
「莉乱さん、よく飲みますね」
刺桜さんが耳打ちしてきた。
確かに、あれほどの目に有ってなお、飲み続けるとは、ある意味。男らしかった。
「相変わらず、無口ですけどね。」
そう、無口であった。
無言、言葉を発しず、音を発しず、コミュニケーションを取るわけでも、お酒の蘊蓄を語るわけでもなく、淡々と飲んでいた。
「そういう人間も悪くない。」
刺桜が、ぼそりと言った。
その瞳に、言い知れぬ狂喜が灯る。
「刺桜さ…」
「わたし、そろそろ帰ります。お休みなさい。」
刺桜さんが立ち上がり、カウンターから立ち上がる。
「それじゃ私も…。」
私が立ち上がろうとすると、莉乱さんに服を掴まれる。
「あんたは残れ。」
すぱっと言い渡され、拒否する隙間が見当たらない。
「はい…」と、私はあえなく座り直す。
刺桜さんはにこりと笑い、それでは。と、帰って行った。
しばらく莉乱さんの酌を手伝うと、乗組員が私たちを見て困ったように笑った。
「莉乱さん、まだ飲むつもりですか?次の寄港地までお酒が間に合いませんよ。」
確かにこのペースで飲むと、二日後まで持たなそうだ。
「お前も来い傷多、どうせもう閉店だろ?」
莉乱さんの言葉遣いが荒くなるのを感じる。
もしくは傷多さんが顔見知りの友だちである可能性もあるのだが。
「憂刈」
「はい」
否応ない言い方で、呼ばれる。
「傷多だ、バークルーで補修生。最近正規採用されたばかりなんだ。」
取り合えず、傷多さんの容貌を表すと、黒いギャルソン姿に、健康そうな肌が印象的な、ブロンドの青年だ。
金のまつ毛がちらちらと忙しなく動いて、小鳥…雛のような印象を受ける。
すらっと伸びた足に、ギャルソン姿がよく似合っている。
「憂刈です、通信隊士です。よろしく…」
「よろしくお願いします。」
私が挨拶すると、傷多さんの後ろからもう一人のバークルーが出てきた。
「傷多、莉乱に構うな。そこの兄ちゃんも、莉乱の前で酔いつぶれたりするなよ。」
傷多さんと同じギャルソンを着た男の人だ、なぜ私には女っ気がないのか。
「いや、私は大丈夫ですけど…」
あなたのお名前は?と聞こうとして止めた。彼のネームプレートに咬奈と書かれている。
赤みがかった黒髪、どうやら日本人である。
「どうしてです?咬奈さん」
「ん?あぁ…こいつ、常習犯でなぁ…バークルーも、潰されて何人も朝吊るされてたんだ。」
咬奈さんに同調して、傷多さんが首を振る。まるで体験者みたいだ。
いや、体験者なのか?
「お二方、酷い言い方だ。まるで私がタチの悪い酒豪みたいじゃないですか。」
そうなのか?
莉乱さんは楽しそうに言葉を繰り出す、刺桜さんが居た時と正反対だ。
「傷多はともかく、咬奈まで、体験者でもないクセに…」
傷多さん体験者だったか。
傷多さんは恥ずかしそうに目をぱちぱちさせた。
「やめてください…」
語尾が小さくなっていく。
咬奈さんが眉間に皺を寄せ、莉乱さんの前に立つ。
「お前な…これ以上は、俺が許さねぇぞ。」
男らしい咬奈さんを前に、莉乱さんは余裕の笑みを見せる。
「そんなに怖い顔しないで下さいよ、私が酒豪だって知ってるの、あなたたちくらいですよ。」
この場に、とても居づらかった。
莉乱さんと咬奈さんは睨みあったまま、私と傷多さんは居場所を失った。
なんだこの船。なんてヤツラを乗せてやがる。
数秒が過ぎ、莉乱さんが目を伏せた。
「駄目ですね…出直します。」
莉乱さんは店を出ていった。
寂しそうな顔を一瞬見せたような。彼は今、何を思っているのだろう。
「…はぁ…すまねぇな兄ちゃん、昔はあんなヤツじゃなかったんだがな…」
ため息を吐いて、咬奈さんは煙草をくわえる。
「咬奈さんは、莉乱さんと古い仲で?」
「ああ、アカデミー時代からのな…昔は酒なんて一滴も呑めなかったはずなんだがな…」
いまの話からすると、彼は莉乱さんと仲のよい友人…友達だったんだろう。
それはあくまで「だった」という。過去形の話ではあるが。
「それがなんで、あんなふうになったんでしょう?」
「さぁな…大方、彼女に飲み潰されたんだろう。」
彼女
「え、あの人未成年じゃ…」
「関係ないだろ、彼には。」

両方同じ人物だ、しかし、彼女を彼と読んだり、彼を彼女と読んだり、はたまた、2つを《王様》と呼んだり。
「あの人…が…。」
若干十代半ば、しかし、このうさぎという組織を配下に置く、王様なのだ。
そもそも、この組織は《王国》として彼女が創った組織。
たくさんの部署に枝分かれした組の、横の繋がりをつくっているのが、戯レゴトうさぎという部署で、私なんかは氷山の一角だ。
他に資金提供する部署。
《王様》の《求めるもの》を研究する部署。
《王様》の《求めること》をする部署。
《王様》を守る部署がある。
まだあるのだろうが、知らない。
まだあるのだろうが、分からない。
バークルーと呼ばれる、傷太や咬奈は資金提供に入るらしい。
まぁ、私には分からないが。
分からないことだらけだが、私は飲む。酒を、飲み下す。
酔えなかった。
そのまま、ずるずると話が進み、咬奈や傷多とつまらない話をした。
「おっと…わりぃ今から王様の所に行かなきゃならねぇんだ。」
時計はすでに午前零時を回っていた。
咬奈さんは台にお酒や、氷をのせて慌てた様子だ。
「傷多あとは頼んだ。」
「はい」
そそくさと、彼は店の奥に消えた。
「何でも今日は王様が偉い人を部屋に集めるんですって。」
「へぇ…」
それにしてもずいぶん遅い時間だ、王様は大丈夫何だろうか。
「それじゃ僕も帰ります。お休みなさい。」
私は部屋に戻り、その日の出来事を認めた。
「ふぅ…」
コンコンと戸をノックするされた。

その晩、私は千景さんに呼び出されたのだ。
船の末尾の、莉乱さんを介抱したあのデッキだ。
「こんばんわ、千景さん。酔いは醒めました?」
「やっときましたか、憂刈さん。夜風で凍えるところでしたよ。」
千景さんは手すりによしかかり、ヘラヘラ笑った。
意地悪。と言うより、困った顔だった。
千景さんは、へらりとした顔を止め、私を見た。真剣な眼差しに、嫌な雰囲気を感じとる。
「憂刈さん。今回の旅に、大切なことを教えましょう。」
「え、あ、はい。」
たどたどしく答える。
「僕が居なくても、絶対に取り乱さないことです。」
え?
「短いのですが、伝えたかったのはそれだけです。
それと、これからひと悶着有ると思いますが、それが終わったら見てください。」
そう言って手紙を手渡された。
千景さんにしては粋な計らい…
違う、千景さんがこんな事する訳がない。
「…千景さんて…いつもなに考えてるか分からないですけど。
今日はより一層分からないですね。」
そう言って顔を上げると、千景さんは居なかった。
「え…」
そこには、まるで鏡のような月があるだけだった。

夜が明け、暁が過ぎ、有明が海面を照らすとき。
私は千景さんの部屋を訪ねる事にした。
何だか、とても嫌な予感がして、今晩は眠れなかった。
直感を昨日千景さんから貰った手紙は金庫の中に保管した。
嫌な予感が当たらないことを信じて、私は朝食を食べぬまま、千景さんの部屋を訪ねた。
コンコン
「千景さん、おはようございます…居ますか?」
中からは、物音一つ聞こえない。
心臓がばくばくと脈打っている。
嫌だ…困る。
ここの戸はオートロックで開くわけがない。
「千景さん!!」
「何をしてる?」
廊下を蒼い長髪の男が普段着の状態で歩いて来た。
奈落上火様、《制裁》の一人だ。
「千景に何か用か?」
本を小脇に抱え、蒼の髪を後ろに束ねている。
「奈落様…千景さん居ないんですか…?」
「さぁ…今朝は会っていない。」
加速している。
千景さん、私に手紙を渡して一体何を言いたかったんだ。
「奈落様、ここの戸を開けて下さい!!お願いします!」
私は奈落様にしがみつきながら頼み込んだ。
感じているのは、薄い血の…
「アンチ」
ぴーと小さい音が鳴った、カードキーが外れる音だった。
「千景さんっ!!」
開かなかった。
五センチ開いて、あとは進まない。
変わりに、ひどい臭いが私の鼻を掠めた。
絨毯に濃い赤の染みが…
「…オープン」
奈落様がそう言うと、戸が無理矢理に開いていく。
重たそうな、その肉を押し退けて、独りでに扉が開いて。
私の目に映ったのは。
憐れな千景さんの死に顔と、無惨に引き裂かれた体だった。
「千景…馬鹿な奴だ。」
たいした表情の変化も見せず、その赤い血の中に足を踏み入れた奈落様は、目を大きく見開いて、世にも恐ろしい苦痛の表情を浮かべる肢体の瞼を閉ざした。
私は声も出なくて、その場にへたりこむ。
「………」
言うことは一つもない。
ただ其処に物言わぬ体が在るだけなのだから。
「…アルファ、我輩だ。
ああ、そうだ…頼むよ。」
船内無線のようなもので、奈落様は執事長に連絡をした。
「憂刈。」
私の背を優しく撫でる。
立つ気にはなれない。
「千景のことは忘れろ。」
「忘れる…?なんで…出来るわけないでしょう…
千景さん…昨日…あんな…っ」
信じられない、彼がこんな死に方をするなんて。
「取り合えず、我輩の部屋へ来い。落ち着こう。」
奈落様に引っ張られ、部屋に入る。
奈落様の部屋は千景さんの部屋と同じ作りで、ソファに座らされる。
呆然としていると、カップを持った奈落様がソファに程近いベットに座った。
私の前にコーヒーの入ったカップを置く。
「憂刈、千景の部屋には何故来た?」
「…いやな、予感が…したんです。」
私はカップに手も付けられず、ただ前を見ていた。
肩の力が抜けて、何もする気が起きない。
「予感…そうか」
「手紙…貰って」
「手紙?」
「…はい、部屋の金庫に。」
「後で取りに行こう。」
「…後で」
「コーヒー、飲みなさい」
進められて、やっと手が伸びる。
ちょっと口に入れて、苦い汁を飲み込む。
「昨日、徹夜だったんだよ。」
奈落様はそう言ってまた本を捲る。
「徹夜には…やっぱりコーヒーですよね。」
「…だな。」
昨日は、私もコーヒーにお世話になった。
「もうすぐ、千景の部屋にクリーニングが来る。千景が死んだことは世界からなくなる。」
奈落様はそう言った。
「お前がアレを見つけたのは不運だったな…」
「千景さんの代わりが…すぐに見つかるんですよね…」
奈落はため息をついていた。
「…さあな、あいつは死ぬために生まれたんじゃない。
死なせるために作られたんじゃないさ。」
それに死んでも死なないさ。と冗談まで言ってくれた。
すると戸をノックする音が聞こえた。
「今行くよ。
落ち着くまでここに居ていいからな。」
奈落様は言って玄関辺りでアルファ執事長と話をしている。
『事実確認はとれたな?』
『ええ、やはり奈落様の睨んだ通りでした。』
『隣は明月と、昴か…二人に事情聴取は無理だな。』
『ですね』
戸の閉まる音がして、部屋は静まりかえった。

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