Lovers Kingdom
□Night and
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朝が来た、と言っても殆ど眠ってはいないので、明るくなってきた。と言った感じだ。
悪魔との、初めての朝。
『お前、名前は?』
シューリッヒは寝転がりながら頬杖をつき、私に聞いた。
「私は名前を名乗るほど、この世に未練を置いたことはないわ。」
昨晩の悲劇を引用してしらを切ると、シューリッヒは口を尖らせる。
『俺だって名乗ったんだぜ?』
私は名前には興味がない。たかが記号だ、そこまで必要だと思えない。
というか、名前なんか大嫌いだ。
『名乗らないなら、俺はどうやってお前を愛せばいい?』
「あなたが名前をくれればいい」
『俺がつけた名を、お前が喜んで使うとは思えない。』
「あなたが私を呼ぶ時だけ囁いてくれればいいのよ」
『俺はお前の全てが欲しい。』
悪魔が囁いた。
『全部…思考の彼方まで愛したい。俺に全てを教えてくれ。』
言葉じゃないと分からないとでも言いたげな、悪魔の悲哀を彼の口は零して言った。
『最初に言っただろ?俺に全てを話してくれるか?って、お前は…』
悪魔に泣かれたらどうしたらいいのだろうか。
『話してくれるんじゃ、ないのかよ?』
今にも泣きそうに、でも張り付いた笑顔の仮面がその美しい顔を歪にかたどった。
「…シュリは喜怒哀楽のはっきりした悪魔だな。分かってるよ、話してあげる。私はね、本当の名前が嫌なの。本当に本当に、大嫌いなの。本当の名前は今までの私と、今の私を合致させちゃうでしょ?でもそれって、セーブの一つしかないゲームといっしょ。私は一人で、一回分の過去と、一回分の未来しかない。それって酷くつまらないじゃない。一度きりじゃ、私は何もやり遂げられない。何も作り上げることはできない。この世界に何一つ傷を与えられないわ。」
だから嫌なの。と私は笑った。
『じゃあ、この世界に傷をつけられるくらい生きたいのか?』
シューリッヒは軽蔑したような目で私を見る。
「生きたいよ、一つなんて言わない。世界がボロボロになって、私に跪くまで、私は生きていたい。」
全てが私の支配下に治まるまで、私は生きていたい。
シューリッヒは難しそうな顔をして、じっと私を見定めた。
彼は一度口を開くも、なかなか話し出すまでにはいかず、私からシューリッヒに尋ねた。
「長年生きている先輩からの意見はどう?」
シューリッヒはへの字に曲がった唇をゆっくり開く。
『…俺は人に興味もなかったし、こっちに降りたのも何百年かぶりだ。だから一概には言えないが、もしそれが本当にお前の望みなら、俺が叶えてやる。』
悪魔はいたって真剣だった。
「悪魔のくせに、面白いこと言うわね。」
意地悪に笑うが、嬉しかった。
他でもないシューリッヒが、私について来てくれる。
自分のような他人が、他人のような自分が、個人と共感してくれる。
私はますますシューリッヒを好きになっていく。