TALES
□実験用モルモット
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「律士ディスト お呼びですか?」
ディストの薄気味悪い研究室に現れたのは、マルクト帝国第三師団所属 リン中佐だった。
その声を聞き、出てきた奇妙な男。
彼は 神託の盾六神将“死神ディスト”。色白で線は細く、兵士というよりも学者といった風情の男。いつも宙に浮いた椅子に座って移動している。
豪華な、王侯貴族が使うような、一人掛けのソファ。
それだけではなく、格好も奇妙、毒々しいことこの上ない。
ほとんど白に等しい銀髪を肩近くまで垂らし、縁のない丸眼鏡をかけている。脚には紫色のズボンを穿き、軍服のような黒い上着は、大きく開いた襟の部分が巨大な花弁のように広がっている。
口元にはどこか軽薄そうな笑みが浮かんでいたが、その唇はやけに赤い。
「待ってましたよ!実は、ジェイドに渡してもらいたいものが…、アレ?
おかしいですねぇ、持っていたはずなのに…、少し探してきます。
適当に座って待っていてください。勝手に帰らないでくださいよぉぉ!」
あたりを見渡すと、廃れた椅子と机が部屋の隅に無造作に置かれていた。
そこに座ると、彼 ご自慢の“カイザーディストシリーズ”の一体が紅茶と茶菓子を出してくれた。そうゆう風に プログラミングされたのだろう。
好意に甘えて 少しはやめのティータイムを楽しんでいると、慌ただしくディストが帰ってきた。
「こらぁ―!それを返しなさいー!」
どうやら お目当てのモノが、カイザーディストが隠し持っていたらしい。独りが寂しすぎて、相手役を作ってしまったのだろうか?
……、不憫だ…。
その騒動に 特に手を貸さずに見ていると、怪しげな薬瓶がカイザーディストの手を離れ 中佐にぶつかり、…割れた。
「ああぁぁあ―!なんてことを!」
ディストは自分が作った機械に罵声を浴びせ、取っ組み合いを始めたのと 同時に中佐に変化が現れた。
白い噴煙が、彼女を取り囲んでいったのである。
ディスト達は いつの間にか喧嘩を止め、その変化に魅入っていた。
(随分 短い喧嘩だ…。)
「律士ディスト、どうなったのです?」
しばらく経ってようやく、噴煙が晴れる。
そこにいたのは…。
「おぉ!完璧です!
これは あの性悪ジェイドにかけてやるつもりでしたが、貴女のほうが似合います!さすがは、美と英知に溢れた私!」
「ですから、先程の薬は?」
「それは…、萌え要素の猫耳 その他のオプションを出現させる薬なのです!」
「はぁ。」
《バンッ!》
勢いよくドアが開き、入ってきたのは メアディの上官、ジェイド・カーティス大佐だった。
「リン、探しましたよ。なぜ よりによってこのような所に…。」
「大佐…。」
手を引っ張り 連れ出そうとしたところ、大佐の動きがピタリと止まる。
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