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□噂
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「え!?なっ誰ですか!!」

顔をあげられないものたから、犯人の顔がわからない。
慌てふてる千鶴の反応を面白がるように。犯人は、頭に乗せていた手を退けると

「病人の体に体当たりしてきそうだったから、手で防いだだけだけど?君も随分と度胸がついたもんだなぁ。感心するよ」

ニヤニヤと不適な笑みを浮かべる沖田の姿は、寝巻き姿のまま。
昼寝頃になってまた風邪を振り返したのだろう。

「沖田さん、驚かせないで下さい。」

千鶴は安堵するように溜めていた息を吐いた。

「んー?僕の縁談に落ち込む暇があるなら、蘭方医が持ってきた薬を土方さんから奪い取って井戸に捨ててきてよ」

「えっ!あ…あの…さっきの言葉を聞いて…」

「うん?」

こんな時に向けられる笑みは達が悪い事を知っている千鶴は、押し黙る事しか出来ない。

「すみません…不謹慎でした」

「いいよ別に。て言うか、近藤さんが勝手に持ってきた縁談だったしね。」

その場の縁側に座り込む沖田に、千鶴はなにも言い返す事が出来ない。破談の理由は、沖田の病弱な所にあるのか。あるいは、あの病が原因であるのか。どちらにせよ、千鶴が軽々しく聞けるものではなないからだ。


「近藤さんならまた新しい縁側探しを始めそうですね」

ぎこちなく笑う千鶴の心情を察してか、沖田はいつも通りに笑って
言った。

「僕のお嫁さんに来る人なんか、絶対に居ないよ。」

「沖田さん?」


「新選組に居る限り相手の親族が許す訳もないし、労咳が治らない限り相手の子が受け入れられるはずもない」

「…っ!そんな、そんなこと!!



沖田の言葉を断ち切るように、千鶴は声を張り上げた。
そんな事はないのだと、そんな人間ばかりではないと。

人生に自身に諦めを付けては行けないと。


でも言葉にする事が出来ない。
難しすぎる。この気持ちを言葉にするのが難しい。

「私は………」

その先のことばが出ない千鶴の様子から、なにかを読み取ったのか。沖田は今まで通り意地悪く笑うと「ありがとう」の一言と。
半泣きで押し黙る千鶴の頭を、今度は優しく撫でた。






































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沖田の縁側は、蘭方医側の「お家の事情」で無くなりました。
新選組の旦那を持つ娘の蘭方医は、イメージが最大に悪くなるから。
沖田と娘さんはひっそりうまくいってたのに、噂を嗅ぎつけた近藤さんが「嫁にしろ総司!!」とか何だか言って、土方さんと近藤さんが勝手に縁談を持ち上げ。関係がバレて。悪い横槍が入りました。近藤さんと土方さんの優しさ。

その後、事情を知った土方さんは後悔してます。近藤さんは次の縁談探しでもしてそうです。

詳細は司馬遼太郎作「沖田の恋」にあります。
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