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□せーのっ
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兎のように充血した赤い目。
蛇口を捻るように流れ続ける鼻水。
ぐすんぐすん。
「沖田先輩…、大丈夫ですか?」
目を擦り続けた目から湿った涙が纏わりつく。
隣で座ったそんな状態の沖田を心優しい千鶴がほっとける訳もなく、ぐすんぐすんと泣いてるように嘆く彼に声を掛けた。
「マスク、女性用なら持ってますけど差し上げますか?」
「マスクは息苦しいから嫌だー」
ぐすんぐすん…。
そんな我が儘を言われしまえば他の対処法を考えなければならない。さて、どうしたものか。
千鶴は沖田を案じつつ考え込む。
「痒いよー、息が出来ないよー…」
そんな時、非情な決断を下したのは千鶴の隣に座る斎藤。
「息苦しいからマスクはしない。眠くなるから薬は飲まない。己から進んでこのような状態になったに過ぎない。よって俺達が気にかける必要は無い」
「‘達’の中に千鶴ちゃんは含まれてないから。勝手に君の仲間に入れないでくれる?」
「沖田さん…ティッシュで鼻をかんで下さい」
ぐすんぐすん…
呑気に日誌を書く斎藤にいつも通り反発するが、その間も鼻声なのが残念だ。
「あー!そういや俺、痒み止めの目薬なら持ってるぞ!」
鞄の底から取り出した平助の手には、緑の容器に入った目薬が握られている。
「これで目の痒みは抑えられますね!」
「僕、目薬させないから無理」
安堵した千鶴だったが、
救いきれない脱力感がまた生まれる。
「お前…もう18歳だろ?初めての目薬トライしてみろよ、怖くねーから」
「人の目薬借りると菌が移るって聞いたことがあるし」
ああ言えばこう言うとはよく言ったものだ。
「でっ…では、私でよければ目薬をさしてあげますから!」
「千鶴、お前がそこまで世話を焼く必要はない。辛ければ自分で何とかするのが剣道部の心構え、総司も……」
総司もそれを理解してるはずだ。と言い掛けた斎藤が目線を上げると、『千鶴ちゃん、早く早くー』と準備し始めた二人の姿に凍りついた。
座る沖田の目の前に立って目薬をさそうとする千鶴は、事情を知る人間から見れば子供に手をかける母親のようで。事情を知らない人間から見れば、イチャイチャとべたついて遊ぶ恋人のようだ。
「沖田さん、じゃあ落としますからね」
「やっぱり怖いなぁ」
「え、わわっ…!?」
目薬を掴む指にぐっと力を込めたのを、見計らったように。
目の前の千鶴にぎゅむーっと抱きついた。
「「…………」」
「沖田さん、これでは目薬をさせません」
「千鶴ちゃん、相変わらず柔らかくていい匂いだなね」
「離れろ総司…!!」
「なにやってんだよ!!」
ぐすんぐすん…
「僕、花粉を絶対通さない千鶴ちゃんをマスクにするから。」
その言葉も、鼻声なのが残念で仕方なかった。
せーのっ
沖田×千鶴
 ̄