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□椿の花
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「これは好機に違いない」



これから始まること。
この先、俺達が為す未来に夢膨らませば落ち着いて座っていられない。
庭に咲く椿が雪のような霜を被る、冷たい気を口から肺にまで一気に吸い込めば、期待と一心に心臓が波打った。




しかし事は上手く運ばない。
約200名狭い部屋に詰め込まれた浪士会合は、清河八郎の裏切りによって佐幕派攘夷派に対立する。
この浪士会合取締役、鵜殿鳩翁(うどのきゅうおう)はその迫力に声も出せない。
首筋に流れる冷や汗が、男の力量を明瞭に事示す。



清「私の意志と相反する者はおられるか」


近「我らは徳川家茂公上洛警護の為に集められた浪士組。徳川を捨て攘夷を語る為に此処に足を運んだ訳ではない」


芹「俺も近藤君と同意見だ」




ザワッと広間に同様が広がる。
清河の意見に反対の意を示したのは、近藤組芹沢組合わせて24名。清河組200名とは桁違いである。
このまま京に警護として参上した所で、なんや役に立つ数でもない。そして大半が無名・農民なのだ。


清「では、我らは江戸へ行こう」

蜘蛛の子散らすように、広間に居たあれだけの数の人間が一斉に消える。その先頭には清河が平然と歩く。



土「鵜殿さん、俺達はこのまま浪士組として京へ行く」

鵜「……好きにしたらいい。私は浪士組取締役を辞退させて頂く」



静かに声を鳴らす。


その様子を見た芹沢は、声どころか喉まで鳴らし片手の酒を口いっぱいに流し込むと


芹「では、お言葉に甘えて俺達も明日に備えるとしよう」


土「………………」


近「歳、ここは堪えるべきだ」



清河といい、鵜殿といい。
他の浪士達や徳川といい。
身勝手で度胸や志もなく。

一人で舞い上がっていた自身が歯痒く思う。



「同行する奴は酒漬け男ときたか」


震える拳を床に叩きつけ。
霜の降りた固い泥道を踏みしめた。



















文久3年1863年2月4日浪士会合
鵜殿鳩翁はその後静岡に引きこもります。彼も攘夷を語る人間として安政の大獄の際、井伊直弼によって左遷。
清河八郎は江戸に戻り、攘夷運動を成し遂げようとしますが、浪士会合の騒ぎで幕府に目を付けられ、その3ヶ月後ぐらいに首を切られて死亡。浪士達は江戸の治安維持を守る新徴組を結成。組頭には沖田総司の義兄沖田林太郎が努めていました。


これから史実順に上げてきます

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