リメイク版テイルズ オブ エデン

□一章 壊れかけた時間に埋もれた
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──それは、突然だった。

「…カイル、お願いがあるの
これから、たとえなにが起こっても…エルレインを止めるって、誓って」

 金髪碧眼の少年カイルはただ、目を白黒させて声の主に言葉を返そうと口を開く。

「どうしたんだよ、リアラ
そんなのあたりまえじゃ…」

 声の主である少女リアラは、カイルの目の前でただならぬ面持ちでいる。


――地上軍拠点跡地の地下。
 壁に照明こそあるが地下の闇は深く、目を凝らさなければリアラの表情はうかがえない。

「お願い、誓って」

 リアラはカイルの返事を途中で遮る。
 カイルと歳の近い少女であるリアラの白過ぎる顔に黒い陰りが浮かぶ。

 怒られている様な気がして思わずカイルは姿勢を伸ばす。

 リアラは、今までカイルとその仲間と共に乗り越えてきた冒険の途中、何度もこのような表情を浮かべたことがある。

 未来を変える事すら出来る“聖女”エルレインとの対峙を前に緊張をしているのだろうか?
 そう、カイルは思う事にした。

 エルレインの力……“聖女”の力は人知を越えている。
 同じく聖女であるリアラ以上の力を持つエルレインとの決戦が待っている。
 緊張して当たり前じゃないか。
 ならば…と、カイルはリアラにしっかりと向き直る。

「…わかった。誓うよ、リアラ。なにがあっても、エルレインを止めてみせる、かならず!」

 ならば、その不安を晴らそう。
 精一杯、声を強くして…リアラが安心できる存在でいられるようにカイルは「誓い」をたてた。

「……………うん
それじゃ、行くわ未来へ…!」

 この気持ちはリアラに伝わったのだろうか。
 少し不安に思えたが、すぐにリアラの首から下げたペンダントが光る。
 遥か未来へと向かう“時間転移”だ。

(なんだ……?)

 カイルはその違和感に気づいた。
 いつもならば、そのペンダントからの光りは白い光である。だが、今放たれる光は“赤”なのである。

 まるで、危険を知らせるようなその光りはカイル達を、いや、カイル“だけ”を包み込んだ。


 それから10年の歳月が過ぎた時、突如としてエルレインの本拠地である“ストレイライズ大神殿”に白い光りが舞い降りた。

「着いたわ」

 その光りがリアラの一言で完全に消える。
 時間転移が成功したのだ。

 いや、それは本当に成功と呼べるのだろうか

「えっ……?
カイル……カイルは?」

……そこに、カイルの姿が無かったとしても。




第一話 NewFrontier





■□■
 赤い光りが消える。一瞬の浮遊感の後にカイルは体を硬い何かに叩き付けられた。

 カイル自身ではわからないだろうが、光りが消えた瞬間、カイルの体は宙に浮いていた。
 その光りが消えた時、カイルの体は重力に引き寄せられて地面へと落ちたのだった。

「いっててて…!」

 強打した腰をさすりながら、カイルは立ち上がる。

「あれ?……リアラ?」

 カイルの周りにいるはずの仲間の姿が見えない事の方が体の痛みよりも重大であった。

「ロニッ!ハロルド!ジューダス!ナナリーッ!!………あれ?」

 カイルはたった一人で草原に立っていた。
 近くには森や川があるが、それ以外は全くない。見渡す限りの草原だ。

「皆が……いない……?」



■□■
 ここに仲間達がいないのならば探しに行こう。
 そう結論を出すとカイルは足を動かしはじめた。

 以前、エルレインに無理矢理に時間転移をさせられた時にも仲間と散り散りになってしまった事があった。

 今回、仲間とはぐれた理由はわからないが、とにかく仲間を探さなくてはならない。

 歩き始めたまさにその時だ。耳をつんざくような轟音が鳴り響いた。

「爆…発?」

 音がしたと思われる方角を見ると森の中から一筋の黒い煙りが昇っている。

 その煙りを見て嫌な胸騒ぎを覚え、カイルは駆け出した。

 今、わかっていることはあの煙りの下で確実に何かが起こった事だ。

「まさか……」

 もし、仮にあの爆発が何者かが何かと戦っている時に起こったものだとしたら……。

 ひょっとすると、その何者かの正体は仲間の誰か…もしかするとリアラではないだろうか?

 何の確証もない。ただ、そこに行かなければならない予感がする。

 前に立ち塞がる樹木をすり抜け、煙りの上がる場所に近づいた時、カイルは天から滝の如く流れる水流を見た。それはカイルの旅の仲間達のうち女性三人が使える魔術“スプラッシュ”に間違いない。

 上から前方に視界を移すと、一人の人間が複数の魔物に向けて魔術を放っていた。

 木々をすり抜けつつ、足を緩めずに走る。

 その者の近くに倒れているの猪のような魔物“ボア”と比べても、その者の背丈がそこまで高くないのが伺える。

 それこそ、女性のような背丈……。

「もしかして……リアラ!?」

 期待と同時にゾクリ、と体が急激に冷える感覚を覚えた。

 彼女の近くに倒れていたボアが起き上がると足をならし、その少女を見据える。
 間違いなく次に行うボアの行動は突進。鋭く、そして鈍く光る牙が彼女に向けられる。

「間に合えッ!」

 カイルは剣を振い、真空をまきおこす。



■□■
「じゃあ、よろしくね」

 頭に乗せたゴーグルを直し、少女“リタ”は目の前に立っていた女性にそう告げた。

 彼女の仲間であり、掛け替えのない親友である“エステル”。そしてエステルを利用した“アレクセイ”を倒した時に起きた ある事故以来、“ユーリ”は消えてしまった。
 懸命な捜索も虚しく、とうとう彼は今に至るまでその姿を見せることは無かった。

 仲間達と話しあった末に、それぞれが今、自分達にできる事をしようとして別れた。

『“満月の子”エステルの力は世界を滅ぼす』

 その言葉は、決して言い過ぎているわけではない。
 だからこそ、エステルはさらわれ、利用されたのだ。


 現在、エステルには“力”の暴走を抑える“ブラスティア”を身につけている。
 しかし、それだけでは、彼女は自由になったとは言えなかった。

 だからこそ、リタは“ザウデ不落宮”にある巨大な“ブラスティア”を調べていた。
 エステルを自由の身にできるように、と。


 ここで調べたものをまとめるためにブラスティア研究の街“アスピオ”へと戻る必要があった。
 先程、仲間の一人にエステルをアスピオへと連れてくる事を頼んだのだ。
 頼まれた女性は竜に乗り、遠く離れて行く。

「よし……!」

ビシビシ…

 それを見送ったリタは、下に待たせている船に戻ろうと足を踏み出した時、石質の床が崩れはじめた。

「……えっ?」

 ガラガラと音をたてて崩壊する足場。
 どうしようもない浮遊感に襲われたリタの目に赤い、赤い光りが移った。



 意識を取り戻した時には、ゆっくりと流れる川の辺にリタはいた。周りは木々が生い茂っている。

「…あれで、よく生きてたな…」

 体を見回すが、どこにも痛みはない。
 とてもありえない話だが、海の上に浮かんでいたザウデ不落宮から落ち、流されて奇跡的にこんな所まで来たのだろうか?

 しかし、それにしては不可思議な事にどこにもケガは無く、調査を纏めた紙も服も濡れていなかった。

「まぁ……無事なら、それに越した事はないか」

 今、すぐにでもリタはアスピオへと戻りたかった。細かい事は気にしていられない。
 そのために、ここがどこなのかを知る必要がある。

 だが、リタが一番最初に会ったものが魔物であったのはまさに不運としか言えない。

「邪魔しないでよ!」

 舌打ちをし、リタは魔術を唱える。魔術の炎が、水が魔物を蹴散らしていく。

 しかし、視界の端で倒したと思っていた一体のボアがこちらへと向かって走り出していた。

「きゃっ!?」

 咄嗟に避けようと動くが、バランスを崩して倒れこんでしまう。

「ヤバい!?」

 痛みを覚悟し、目をつむる。


ガキンッ


 小気味よい音をたててボアの強固である牙が折れる。

「この技…!?」

 死角であった背後から聞こえたビュン、と空を切り裂くかのような音に驚いた時には、先ほど倒したはずのボアの牙に蒼い衝撃波が刻まれていた。
 見間違うはずがない。これは“蒼破刃”という技だ。



■□■
「まさか…ユーリ!?」

「リアラァッ!!」

 思わぬ助っ人に驚いたリタ
 と
 探していた仲間だと思ったカイル

 だが……お互いに顔が見える距離にまで来た時、「「誰…?」」と二人で声を揃えて、驚いた。
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