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□ハーフ&ハーフ
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【ハーフ&ハーフ】



 一般食堂のテーブルを挟んで二人の士官が睨み合っていた。
 ひとりは金ライン1本に星1つ、少尉級を持つ男。もう一方は金ライン2本に星3つ、大佐級という上級士官だ。
「いい加減、諦めて、下さい、大佐」
 噛んで含めるようにジャン・ハボック『少尉』が言えば、
「嫌だと、言っている、少尉」
 同じような口調で睨み上げながらロイ・マスタング『大佐』が返した。
 二人の間には皿が数枚乗ったトレー。ランチの残骸と見られる野菜が残されていた。
「野菜も食わなきゃダメでショ!」
「野菜なら食べたではないかっ!」
「じゃあここに残っているセロリとピーマンは何すか?!」
「いいじゃないか、それくらい大目に見ろ!他のは全部食べただろう!?」
 深刻な表情で睨み合い、何を話しているのかと思えば余りにも低レベルな罵りあいに、注目していた周りの者は呆れ顔で通り過ぎた。その顔には『なんだ、いつもの痴話喧嘩か』という表情がありありと浮かべて。

 再び無言で睨み合う二人の間を時間だけが過ぎていく。
(ちくしょう、時間切れを狙ってやがるな)
 昼休みは1時間。このまま粘れば午後の始業時間になってしまう。何もしないだけでロイは逃げきれるのだから、ハボックには不利だった。
 一か八かと野菜の小山にフォークを突き立てたハボックは「はい、アーンして!」とロイの口元に持っていって迫った。少し自棄気味になっているようだ。
 勿論ロイはそっぽを向いて黙殺した。
「た・い・さ」
「い・や・だ」
 喋った隙に口内に押し込められるのを警戒して、両手で口元をガードしながらのお返事だ。三十路間近の男の余りにも子供っぽい仕草に(そしてそれが違和感なく可愛らしいことに)目眩を覚えつつ、フォークを差し出し続けた。
「……大佐」
 わざとらしく思いっきり不機嫌な表情とそれに相応しい声音で呼びかければ、ロイが動揺してビクリと身体を震わせた。
「……お前だって、私が『アーン』てやった時、食べなかったではないか!だから私も断固拒否する!」
「…は?そんな嬉し…いや楽し…ぃゃぃゃ、いつ大佐が俺に『アーン』なんてしました?!」
「この前、クレソンをお前にやった時だ。…手ずから人参を食べさせてやろうとしたのに、お前は拒否した」
 いやいやいや。
 あれは人参を俺に押しつけようとしてただけだろう?!
 ……なんて内心思いはしたが、喉元まで出かかった言葉をグッと飲み込んだ。
 言えば確実に、拗ねる。
「たいさー、食べ物残したら勿体無いお化けがでますよー」
「そんなモノ、いない」
 現実主義者の科学者はにべもない。
「農家の人に失礼ですよー。丹誠込めて作った農作物をこーんな残しちゃってー」
 情に訴えかけてみれば、
「…勿体無いなら、お前にやるから食べればいい」
 ハボックが小さくため息をついて、妥協点を探った。
「わかりました。俺も半分手伝いますから、大佐も頑張って半分食べましょう?」
「半分?」
「そう半分」
 漆黒の瞳がじっと見つめてくる。黒耀石のようにキラキラ輝くそれから眼を離せずに返事をすれば、端正な顔に笑みが広がった。花が綻ぶように。
「よし、半分だな?」
 フォークを持ち上げると自分が築いた野菜の小山にグサリと差し込み、一番大きなセロリの一切れをハボックに差し向けた。
「ほら」
「あんた…一番大きいのを…」
「気のせいだ」
 これ以上の譲歩は無理かと大人しく口を開けば、嬉々としてセロリを放り込まれた。
 お返しとばかりに残された中から一番大きな塊を刺してロイに向ければ、たちまち文句が飛んでくる。
「大きい!」
「気のせいッス」
「……」
 仕方なく開いた口に入れられた独特の苦味のある野菜を咀嚼する。さも嫌そうに眉を顰めている割にはどこか愉しげだ。

「あ、大佐ずりぃ!一度に2個も!」
「気のせいだ!」
「じゃあそのフォークに刺さってるセロリとピーマンは何すか?!」
「男が小さいことを気にするな。ほら、アーン!」
 食堂の一角で賑やかにイチャツキあいながら、食べさせ合いっこは続いていた。


 
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