FA text

□Happy Halloween,happy?
1ページ/9ページ




【Happy Halloween,happy?】祭の準備篇



「やっぱメイドさんだよ!『お帰りなさいませ、ご主人様!』って」
「ハボック少尉、普通は吸血鬼や狼男や魔女などの妖怪魔物、あるいは黒猫や蝙蝠など動物と相場が…」
「じゃ魔女!魔女で!」
「いいですね〜、魔女っ子。可愛いでしょうねぇ〜」
「だろだろ?そう思うだろう、フュリー!」
「…フュリーよ、『魔女』と『魔女っ子』はビミョーに違くねぇか?」
「堅いこと言いっこ無しだぜ、ブレさん!あ〜〜でも黒猫も捨てがたいなあ〜〜」
 東方司令部司令室では司令官不在のまま異様な熱気と盛り上がりを見せていた。
 それと言うのも1時間程前、大総統府発令の回覧物が廻ってきたからだ。



「大佐、回覧板見ましたか?何でも月末にハロウィンやるそうですよ」
「ハロウィン…?確か外国の祭りだな。『菓子を出せ。さもなきゃ酷い目にあわせるぞ』とか言って恐喝する…」
「え……そんな物騒なお祭りでしたっけ…?」
 うず高く積み上げられた書類の山の隙間から、ロイの髪や視線の黒い色彩が、ハボックの眼にチラチラと見え隠れする。声はすれども姿は見えず。
 その山を乗り越えて、バインダーに挟まれたチラシを差し入れた。
 ロイの脳裏に浮かぶのは、お祭り好きな眼帯男にしてこの国の最高権力者の高笑い。
「面白そうじゃないか、やりたまえ。ハッハッハッハッハ」
 しっかり幻聴付きで。

「…物好きな」
 発案者は中央にいるスクエア眼鏡の親友かもしれない。主催所に眼をやれば、『主催:中央司令部軍法会議所』の文字があり、ロイの口から溜息が漏れた。

「『ハロウィン仮装大会!〜きたる10月31日 東西南北司令部で仮装大会を行います。』か。やれやれ、うち(東方司令部)はお祭り好きが多いからな。みんなどんな仮装をするのやら…」
「なにヒトゴトみたく言ってんすか。チラシよく読んでください」
「なんだ?『@各部署から代表者1名が仮装すること』…よし、ハボック少尉、やれ。上官命令だ、犬にしろ犬に。耳と尻尾つけるだけでいいじゃないか」
「最後までちゃんと読んで下さいよ大佐」
 嫌な感じのにやにや笑いを浮かべる長身の部下を書類山脈越しに訝しげに睨み上げ、再びチラシに眼を落とす。
「何…?『A代表者は所属長であること』…だと?!」
「つー訳で、司令室代表は我らがマスタング司令官、と言うことッスよ」
「………そうか。よし…吸血鬼の仮装にしよう。そして美女の可憐で柔らな首筋に牙を…」
「もっぺん言いますが最後までちゃんと読んで下さい」
「………『B仮装はハロウィン当日の勤務時間中終日とする。C仮装内容は代表者以外の所属部員が決めること』……なんだとっ!!?」
 思わずチラシに怒鳴りつけたロイを見て、ハボックの笑みが深くなった。
「なので、あんたは自分じゃ仮装内容決められないんですよ」
 残念でしたねぇなどと、声も表情もちっとも残念がってるように見えない薄情な部下を睨みつける。
「…わかっていると思うがな、ハボック少尉。ふざけた仮装を提案したら、ただじゃ済まないぞ?こんがり焼かれてハロウィン・ディナーのメインディッシュになりたいか?」
「やだなぁ大佐。俺だけで決める訳じゃ無いんすよ?みんなの総意ですから!」
「みんな…?そうだ、こんなおふざけ、中尉が了承するわけ…」
「仕事に支障が出なければ、問題ありません」
 きぱっ。
 突如として入り口から聞こえてきた潔い声の発生源を見れば、新たな書類一山を抱えた麗しの副官の姿。
「…だ、そうですよ」
「中尉……」
 がっくりとうなだれたのは、発言の内容にか、はたまたさらに上乗せされた書類の標高にか。



 かくて急遽始まった『マスタング大佐に何を着せたらプリティか会議』は白熱していた。主にハボック少尉とフュリー曹長が。
 何しろロイ本人に拒否権はない。言ったモノ勝ちだ。
「魔女って言ったらアレですよね。変身ステッキ!ふりふりぴらぴらのミニスカに、決めポーズと決め台詞も考えないと!あと必殺技も!」
「だーかーらー、フュリー曹長。それは『魔女』じゃなくて『魔女っ子』だって…」
「いいなぁ、ふりふりぴらぴらのミニスカ!色は黒だよな、魔女だし!大佐の白い肌に栄えるだろうなぁ…」
 どこかズレた発言のフュリーにツッコミ役にまわるブレダ。ファルマンは言葉少なく時折相槌を打ちつつも、正しいHalloween知識を披露するタイミングを窺い、ハボックはどこか遠くを見やる眼差しで己の妄想世界に浸っていた。



 
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ