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□スキスキダイスキアイシテル
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【スキスキダイスキアイシテル。】



「大佐、好きです」

 唐突なハボックの『告白』に上司のロイは首を傾げた。
 さて、何だろう。

 窓から差し込む陽光をうけ、キラキラ煌めく期待に満ちた青い瞳に見つめられ、ロイはふと思い当たった。
「…そうだな。最近お前も、お前の隊も働き過ぎだな。碌に休みを与えられんで、悪かった」
「…はぁ………。じゃ、お休みいただけるんで?」
「交代で休めるよう中尉と相談しよう」
「…そりゃどーも」

 この部下は何かオネダリしたいとき、たまにこういう言い方をしてくることがある。「当ててみろ」と暗に言われている気がして、いつも問い返すことなく『希望』を言い当ててやる。これまで外したことはない。
 今回も合っていたようで、ロイは己の慧眼に満足の笑みをもらした。



「大佐。大好きです」

 唐突なハボックの『告白』に上司のロイは首を傾げた。
 はて、何だろう。

 窓から差し込む茜色の陽がハボックの顔を同じ色に染めていた。夕陽を映しギラギラ輝く期待に満ちた青い瞳に見つめられ、ロイはふと思い当たった。
「ああ、そんな時期か。また金欠なのか、ハボック?」
「…………え?…ええ……、まぁ…」
「仕方のない奴だな。今夜、食事くらい奢ってやる」
「そりゃどーも……」

 壁に掛かったカレンダーを見れば、給料日2日前。そこそこの給料は貰っているはずなのだが、煙草代に消えるのか、どこぞの女に貢いでいるのか、毎月この時期のオネダリは『金欠です。何か奢って』だった。
 先月も、先々月もそうだったな。「金欠か」と問えば「はい、そうです」と力の無い答えが返ってきた。
 ロイは己の記憶力に、どうだとばかりに胸を反らした。



「大佐…愛してます」

 唐突なハボックの『告白』に上司のロイは首を傾げた。
 ふむ、何だろう。

 陽の落ちた窓は真っ黒な矩形を晒し、蛍光灯の光で逆光になった青い瞳の色は読みがたかった。

――休みは順次取っている筈だしな。隊長のハボックは最後になったので、これからのようだが。給料日は一昨日だし、すでに金欠ということはないか……はて?

「…わかりませんか?」
 眉根を寄せてうんうん唸る上司の前で、ハボックが緊張感の隠った声で一歩前に出る。

 これまでの『オネダリ』ネタ、最近交わした会話、ここ数日の情勢を脳内でこねくり回し、ロイはふと思い当たった。
「もしかして、この間話をした店に連れて行って欲しい、のか?」
「……え…」
「…違うのか?」
「いえ、…連れて行ってもらえるんで?」
「そうだな、今夜は残業になりそうだから、明日でよければ構わんぞ?」
「………そりゃ、どーも」

 駅前に新しくオープンしたバーが雰囲気も良く、オールドボトルの品揃えが豊富だ、と早速女性を伴って足を運んだロイが部下たちに武勇伝を披露したのは数日前。
 なかなか高級感のある店だから、少尉ごときが扉を開けるのは躊躇するのだろう。まあ、場慣れした自分が一度連れて行ってやることにしよう。
 なんて気が利く優しい上司なんだろうと、ロイは自画自賛した。




「大佐………好きです。本当に、愛してます」

 唐突なハボックの『告白』に上司のロイは首を傾げた。
 今度は、何だろう。

 照明を絞り込んだ薄暗い店内。男二人の気安さもあって、テーブル席ではなくカウンターに並んで座っていた。一定間隔に置かれたキャンドルの炎が揺らめく影を映し出す。
――休みじゃないし、金欠でもない。お目当ての店にはこうして連れてきてやってるし……

 考えながら、無意識にグラスを揺すると、カランと氷の崩れる音がする。

「何にも、思いつきませんか?」
 黙り込む上司に向かって話し掛ける声は、やや掠れていた。グラスを睨みつけるようにして考え込んでいるロイにはハボックの瞳の色は、映らない。
「……最近、オネダリが多いぞ」
「すいません。本当に、…本当に欲しいモノがあるもんで」
 ロイの脳裏には、彼の『本当に欲しいモノ』はたった一つしか思い浮かばない。しかし、それを言葉にするのは躊躇われた。

 それ以外の何か適当な『オネダリ』が思い付かなかった時には、どうすればいいのだろう。

「大佐、」

 声に反応して、グラスを抱えるように持っていた両手の平がピクリと震えた。


「愛してます」



 手の中で、氷が崩れる高い音がした。









ヘタレなハボックと気付かないロイ。
(というか気付かないふりのロイ)

くっつくのに10年くらい掛かりそう。

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