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□ご主人様を待つわんこ
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「えぇえ?!あのっ、た………、ロ…イ、さん?」
 勇気を出して初めてファーストネームで呼んでみた。口に出してからことのほかその響きが気に入ったのか、
「ローーイロイロイロイさーん!!」
 遠慮なく大声で連呼した。
 派手に呼ばわれたロイが流石に気付いたのか、眉を顰めて身体ごとハボックに向き直る。
「…やあ、ハボックじゃないか」
「は…?」
 まるでたった今気が付いたかのように。そしてぶらぶら歩いていたらたまたま偶然運良く道端でばったり出会ったかのような反応だった。
「偶然だな、こんな所で何を?今日は非番だろう。ああ…デートの待ち合わせかね?」
「……え?何言ってんすか?今日はあんたとデ」
「ああそうだ、もしぶらぶら歩いていてたまたま偶然運良く道端でばったり出会ったらと頼まれていた物があったな」
「偶然?!俺たちまちあ」
「今日提出した書類に不備があったそうだ」
「わ」
「よって明日は10時半までに出勤すること。中尉からの『命令』だ」
「せ…を…」
「それとフュリーから預かった。新しい小型通信機だ」
「たぃ…」
「確かに渡したぞ」
「ねぇ、た」
「あとお前、面倒な書類作成をブレダに押し付けたそうだな?」
「ぁぅ…」
「『今度なんか奢りやがれ』と言っていた」
「はぁ」
「それから…」
「あのぉ…ロイ…さん?」
「ファルマンが、『よろしく』と」
「は………?」
 あんぐりと口を開けたままハボックはロイの苦々しげに歪めた顔を眺めるばかりであった。

「では、確かに全て伝えたぞ。じゃあな」
「はぃ?!ちょっ、待っ」
 しゅたっと片手を上げて去っていこうとするロイに追いすがり、引き留めようとする。
「なんで?なんで俺置いてこうとすんの?俺なんかあんた怒らすようなことした?」
「…置いて行くとは人聞きが悪いな。デートに行く途中ぶらぶら歩いていたらたまたま偶然運悪く道端でばったり出会っただけだろうが」
「だから!そのデートは俺とた」
「と言う訳で私はこれからデートに行くので、ついて来たければ勝手にするように」
「あんた何訳のわからんこと言って…あっ、ちょっと待って!置いてかないでーー!!」



 
 
「…いい画(え)が撮れなかったわね」
「はぁ」
 私服に着替えたリザ・ホークアイ。階級は中尉。がカメラを片手にカフェから死角になる物陰から湧いて出た。
 気のない返事をしたのはハイマンス・ブレダ。階級は少尉。巨体とそれに見合う巨腹を狭い横路に隠していた(隠しきれてはいない)。
 ホークアイの手には愛銃の代わりに黒光りする1眼レフ望遠カメラが握られていた。
「ちなみにどんな画を撮りたかったのか、それをどうするつもりだったのか訊いても…いや、やっぱいいです」
「勿論、仲良く並んで座って笑顔で楽しくお茶する仲睦まじいどうにも言い逃れできない状況の写真を撮って、それをさり気なく大佐の机に置いておいて、出勤してそれを目にした時の大佐の内心慌てふためく動揺された姿を観察して楽しむのよ」
「…いいって言ったのに…、てかそんな事考えてたんすか中尉…」
 たまたまロイと同じく日勤シフトだった為、帰りがけに誘われホークアイに付き合う羽目になってしまったブレダだった。

 
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