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□きみのためにできること
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「大佐、イカは衣つける前に切り込み入れないと。爆発します」
「イカが爆発するわけないだろう」
「するんすよ」
「イカだぞ?軟体動物だぞ?爆発物じゃないんだぞ?」
「でもするんです」
「???」
 その前に切らずに丸ごと1匹というのはどうかと思う。
「あと、海老は殻剥いて、背腸とりましょうね」
「せわた?」
 ああやっぱり背腸の存在を知らないか。てかイチイチ小首を傾げるな。可愛いだろうが。こら。
「で、このミックスベジタブルは付け合わせですね?洗って別の皿に…」
「いや、それも揚げようと思ったんだが」
「…何で?」
「ミックスフライ、だから?」
 何故に疑問系。
「…まさかこのミックスナッツも」
「…ミックスフライ…だから?」
 大佐は『ミックス』フライの意味を完全に履き違えている。
「…もう、ホントにあんたは何にもしなくていいですから」
「………」
 本日何度目かの本気の本音を漏らせば、不服そうに頬を膨らます。様がこの上なく愛らしい。

「…にしても、自分から『家事をしてやる』って言うから自信があるのかと思えば…。なんで苦手なことを敢えてやろうとしたんですか」
 昨夜司令部から二人で俺の部屋に帰り、いつものように俺が(一人で)作った夕食を一緒に食べて、いつものように俺が(一人で)片付けて。
 大佐の休前日の夜とあって盛り上がらない訳もなく、ちょっと無理無茶しても許されるよな?と『いただきます』する直前。
「明日は私がこの家の事をしてやろう」
 やや胸を反らし気味に偉そうに言い放ったのだ。
 恋人の申し出に嬉しくて喜色満面頷いた俺だったが、続く大佐の言葉に泣きたくなった。

「だから今夜は控え目にな。明日起き上がれなくなったら困るから…」



 ……泣く泣く言われた通り『控え目』にしたというのに。(大佐には今朝「控え目にしろと言っただろうが!」と叱られたが)

「……いつもしてもらってばかりだから」
 ポツリとバツが悪そうな表情を見せて大佐が呟いた。
「お前が作ってくれる料理は美味しい。快適に過ごせるよう掃除も洗濯もしてくれる。それが、私には嬉しいから…」
 微かに赤く染まった頬を隠すように、俺から視線を顔ごと反らして。
「…同じように、お前も喜んでくれるかと思っ」
 みなまで言わせず力一杯抱き締めた。胸がじんわり温かくなって、幸福感で満たされる。俺は幸せだ。不器用だけどもの凄い可愛い恋人がいて。
 例え狭いワンルームの部屋が滅茶苦茶になってようが明日着ていく服が無かろうが。

 それでも俺は幸せだ。





「ハボ…苦しい…」
「すいません。もう、ちょっとだけ…」
「……うん」
 思いのままの強い力で腕に閉じ込めた大佐が身動ろぎした。腕の中の愛しい存在。自分だけが一方的に想っている訳じゃないと教えてくれた大切な人。

 いままで持っていた理想の恋人像と現実の恋人とのギャップは遙か彼方果てしない開きがあるが。

 そんなもの『それがどうした!』と開き直って叫び散らすほどに、俺は秘密の恋人にメロメロなのだった。




 
 
 

公式小説『ロイの休日』にて牛先生が描いた野菜の皮むきに悪戦苦闘するエプロンロイのカット。
何故か包丁を持つ右手も絆創膏が貼ってあったんですよね…。


ロイがアホの子みたくなって申し訳ない。(土下座)
ここまで酷くはない…と思う、よ?(疑問系)


 
 
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