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□きみのためにできること
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「も…あんた何にもしないでください」
「何にも?軍も辞めて外出もせずここでお前に囲われてお前の世話を受けて暮らせと?」
またもや冗談のつもりで言ったのだろうそれは愉しそうな笑みとともに。だけど。
「できれば、そうしてもらえれば」
「…おい」
「……冗談ですよ?」
「真顔で言うな。たまに怖いぞ、お前」
だって本気の本音だから。
…そうか、怖いのか。気をつけよう。
大佐を拉致監禁して俺だけの世界に閉じ込められれば。俺だけを見て俺の声だけ聞いて、俺の……
「ハボック」
「え?はい?」
「何を考えている?顔が気持ち悪い」
「ひでぇ…」
都合の良い『二人だけの世界』に嵌ってしまった俺の思考が大佐の呼び掛けで浮かび上がった。…そんな気色の悪い顔をしていただろうか。
本気の本音はまだ心の奥底に沈めておこう。まだ、しばらくは。
しばらく居心地の悪い沈黙が続いたが、大佐の小さな呟きがそれを打ち破った。
「……悪かったな」
「え?…どの件に関してですか?」
「…私はそんなに沢山お前に謝罪しなければならないことが?」
「部屋を掃除したつもりで余計に散らかしちゃった件とか、身に着けるもの一式全部洗濯機に突っ込んで洗濯物をドロッドロのガビガビにしちゃった件とか、料理しながら危うく小火騒ぎおこしかけた件とか、俺に断りもなく勝手に怪我をしちゃった件だとか?」
「…他は兎も角、最後のはお前に謝るような事じゃないだろうが」
「最後のが一番の問題です。大問題です!」
「そうかそうかそれはわるうございました。まことにもうしわけありませんはぼっくしょーい」
「うーわー、ひっじょーにこころのこもってないしゃざい、いたみいりますますたんぐたいさどのー」
互いに棒読みなセリフを読み上げて、挑むような表情で睨み合う。
しばらくそのまま見つめ合っていたが、どちらからともなく溜まらず噴き出してしまった。
「…本当に、悪かった」
「いいですよ、もう」
あんたもアパートも近隣住民も無事だったから。
「で、何を作るつもりだったんですか?」
「ミックスフライ。お前揚げ物好きだろう?」
気を取り直して(部屋は後で片付け直して、洗濯もしなおすとして)、腹も減ったことだしまずは食事の準備をしようと調理台の上を見れば、そこには怪しい食材(らしきもの)が……。
「ええ、まあ。…あの台に乗ってるヤツが、そうなんですか。やっぱり」
「うん」
台にはボウルとその側にコロンと転がっている白いモノ。
大皿にはベチャベチャな物体がいくつか乗っていた。『ベチャベチャ』というのは卵液とか小麦粉とかパン粉とかにまみれていたからだ。『ついている』ではない。まみれているとしか形容のしようがないソレ。
「……手を血塗れにしながら剥いてくれたソレは、…イモなんすかね…?」
不細工に歪な小さなソレは大佐の血のせいで薄ピンクに染まっていた。元の大きさは分からないが1/3くらいになっちゃってんじゃないだろうか。さらにボウルの中には白い粉状の何か。
「コロッケを、作ろうとしたんだが」
それでジャガイモの皮を剥いたのはわかるが。
「叩いても殴っても上手く潰れないんだ」
生ですから。
ていうか、まさかボールの中身は…。
「錬金術、でジャガイモを潰したとかいう…?」
「潰したんじゃない。分解したんだ」
胸を張って威張りながら訂正された。正直どっちでもいい。
だから粉末マッシュポテトの元みたいになっているのか。
大佐のいう『ミックスフライ』はコロッケと他海鮮類のようで、例のベチャベチャに目を転じればそれらしき物が。