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□秘密の恋人
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 またもやお料理の話とは思えない単語が飛び出した。どこかのテロ組織にガサ入れしたオハナシとか混ざってんじゃないだろうか。
「揚げ物をしている時に鍋から目を離しちゃいけませんって、後ほど娘さんに怒られたそうだけど」
 そういう問題か?そうなのか?
「錬金術で家屋は元通り復元できたけど……以降大佐は料理…というか家事の一切を禁止されたわ。ヒューズ中佐に訊いても同じようなエピソードが出てくるでしょうね。あの人も、大佐が家事をなさろうとした時それはもう必死に止めていたから」
 あ、今ちょっとムカついた。

「…古いとはいえ割と大きい一軒家だったから周りに被害はなかったけど」

 …俺の家は単身者向けの狭小ボロアパートで。

「隣家との間も離れていたから被害はうちだけに留まったけど」

 ……アパートの3方が同じような集合住宅が密集していて…。

「……話が逸れてしまったわね、ハボック少尉。楽しみね?…恋人の手料理」

 あああぁあ楽しみだ。どうしよう。すごく楽しみすぎて、今すぐ帰りたくなった!

「あ、あのあの中尉っ!」
「何かしら?」
 ニッコリ笑顔が怖い。ごめんなさいごめんなさい。思わず謝ってしまう。とりあえずごめんなさい。
「俺、急に頭痛と腹痛と吐き気と目眩と下痢と便秘になりました!早退させてください!」
 思いつく限りの病状を並べ立てれば、中尉の笑顔が深みを増した。ああマジでごめんなさいごめんなさい。嘘です仮病です。ごめんなさい。
「頭痛と腹痛と吐き気と目眩と下痢と便秘ね?仕方ないわね、今日はもうお帰りなさい」
「え?はいっ、ありがとうございます!」
 どうしたことか中尉が俺の仮病を見抜けないわけないのに、あっさり見逃してくれた。
 そもそも『帰れ』と言い出したのは中尉だったっけ?その理由はやはり分からないままだけど。いいや、もうこのさいどうでも。
「早退届けは私が書いておくから。急いで、た…恋人のところに行きなさい」
「はい!ありがとうございます!」
 再びの感謝の言葉とともにビシッと敬礼を決め、帰り支度をするために自席へと戻る。そこには大佐の席ほどではないにしろ書類の小山。
「…ブレダ!」
「あー急ぎの書類は俺が処理しといてやる。早くた、…恋人んとこ行け」
「サンキュー、ブレダ!愛してるー!」
「おめぇの愛なんぞいらん。なんか奢れ」
 勿論だとも。俺の愛は大佐のものだからな!
「ハボック少尉、はいコートです!急いでた…っ、恋人の所に帰ってあげてください」
「おお、フュリー、ありがとな!」
 気の利くフュリーがクロークにかかってた俺の薄っぺらいコートを取ってきて差し出してくれた。
「少尉、車の鍵です!表に軍用車をまわしておきました。明日の朝までに返せばいいですから。た、恋人が待ってますよ。さ、お早く!」
「ファルマンもありがとうな!」
 チャラリと音を立てて、俺の掌に鍵が落とされた。ファルマンがいつの間に部屋を出て行ってたのか気付きもしなかった。
 何故か皆、『恋人』と言う前に『た』と言いかけるのが気になるが。今はそんな些細なことを考えている暇はない。

 俺の恋人、大佐の元へ。一刻も速く。

 大佐の過去の話を聞いたからといって、慌てて帰ったなどと皆に気取られてはならない。
 なにしろ俺達が恋人同士なのは二人だけの秘密なのだから。

 急げ、俺の秘密の恋人の元へ。






 
 
二人だけの秘密。
と、思っているのは二人だけ。

というオハナシ。

勿論、中央の髭眼鏡中佐もご存知ですとも。


ロイはセリフどころか出番すら無かった…。
だからハボロイではなくハボ(ロイ)←姑息


 
 
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