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□いつでもいっしょ
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「わーーっ!!?少尉が燃えてる!!」
「大佐がご乱心だー!!」
「水!いや消火器持ってこいっ、急げ!」
「たったいさ、落ち着いてっ!」
「みんな押さえろ!発火布を取り上げるんだっ!」

 幸い処置が迅速だったのと(日頃の訓練の賜物だ)、焔の威力が弱かった為(ロイの理性の賜物か)、それほど大事に至らずに済んだ。





「…………で、ハボック少尉は今どこに?」
「医務室だ」
 道理で先程から姿が見えないと思った。ブレダたちは最近あまり食堂を利用していないのだ。行けば『おめえんトコのアレ、何とかしろよ!』と無言のプレッシャーがかかるからだ。
「…その事に対する苦情では、ないのか?」
「それは今知りました。しかし苦情は以前から入っております」
「なぜだ?」
 心底不思議そうな表情で言う上司に初めてホークアイが口ごもった。ここまで無自覚だったとは思わなかったらしい。
「……やはり、大佐という階級のうえ、事実上司令部トップの方がいると落ち着いて食事が出来ないようです」
「だが別に一般食堂は階級に上限は無いだろう?誰が利用してもいい筈だ。そもそもそんな事を気にするような輩でも…」
「しかし、実際に佐官に昇格したら皆さん利用しなくなるでしょう。上級士官用サロンを利用されては?」
「あそこはハボックが入れんではないか!」
「……そうですが、それが何か?」
「あ…いや…ハボック少尉が、というか。その、皆が利用できないだろう?部下と食事を共にして…ぇえと、円滑なコミュニケーションを……」
 しどろもどろに語を重ねても、説得力は全く無い。
「今更、昼休みにコミュニケーションを取ろうとなさらなくてもよろしいかと」
「ぅ…」
「兎に角、明日から一般食堂の利用はなさいませんよう。よろしいですね?」
「…ハイ……」
 負けた。上司がうなだれるようにして副官に頷くのを部下達は見ていた。
 何はともあれ、明日からはまた食堂で楽しいひとときが過ごせるだろう。

 そう思った、のに。



「大佐、食堂立ち入り禁止になったんですって?」
 翌朝、何事もなかったかのように元気に出勤してきたハボックの第一声だ。
「人聞きの悪いことを言うな少尉。遠慮してくれと中尉に頼まれただけだ」
「似たようなもんじゃないすかね」
「……それより、火傷はどうなんだ。まだ痛むか?」
 頭に巻かれた包帯や顔に貼られたガーゼが痛々しい。心配げな表情でそっと伸ばした手はガーゼの上から頬を優しく撫でた。
「大丈夫ッス。体力だけは自信ありますから!俺こそスイマセン、冗談が過ぎて…」
「……単なる冗談か…」
「え?何か言いました?」
「いや、何でもない。ところでそれは何だ?」
 片手に提げていた大きな包みを見咎めてロイが話を逸らすように訊ねれば、突きつけるようにして持ち上げて見せた。
「弁当作ってきたんすけど、良かったら一緒に食べませんか?」
「弁当…?」
「いやあ、ちょっと沢山作り過ぎちゃって…一人で食べるには多いかなぁ…って…」
 見れば確かに、一人どころかロイと二人で食べても十分すぎるどころかお釣りがきそうな量だった。
「それにね、大佐の好きなもんもいっぱい入れてきましたよ。デザートもありますから!」
「………」
「……あー、と…やっぱ嫌…ですよ…ね…?」
 黙り込んだロイを見てハボックが心持ちうなだれた。案の定、
「嫌だ」
 ハッキリとした拒絶の言葉がハボックを打ちのめした。

 
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