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□いただきます。
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 デイビッドが皿の上に投げ出したスプーンにはまだオムライスが残っていて。端っこの切り口にその切り取られた一口分をそっと戻し、出来るだけ元通りに復元した。幸いケチャップで描かれた『LOVE & PEACE』の文字は切れていなかった。
 スプーンでオムライスを均してほぼ元通りになったのを確認すると、汚れたスプーンはシンクに放り投げ、引き出しから新しいスプーンを取り出しセットする。そのまま足を止めることなく流れるような動作で扉横の壁に張り付く。出来るだけ薄く、平らに。
 扉が再び大きく開いたのはその瞬間だった。
「…でな、俺とハニーの国の国旗をだな…」
 セバスチャンの肩に腕を回して押し入れるように入室してきた。デイビッドの身体で遮られセバスチャンからはBの姿はよく見えないだろう。デイビッド自身も顔を寄せて恋人の視線を独り占めしていた。
 二人の身体が完全に厨房に入るのと同時に、入れ違うようにBがスルリと廊下に抜け出した。
 その際チラッと様子を窺えば、ふと視線のあったデイビッドがウインクを寄越す。
 軽く頭を下げたBは完全に廊下に脱出することに成功すると、全力疾走した。
 隣家の主人から逃れる時と比べ遜色ないほどの、それはそれは見事な走りっぷりだった。





「なによB。グッタリして。ユーゼフ様いらしたの?」
「…違うっ。つか俺の前で不用意にその名を出すな!」
「あ、ユーゼフ様」
「っ!!!?」
「なんちゃって」
「……ツネッテ…っ」
 脱出後それなりに仕事をこなし、疲れきったBが休憩室でテーブルに懐いていると、ツネッテにいいように遊ばれる。
 いま。
 いま、もし『あの人』が出没したら。
(デイビッドさんに助けを求めたいところだけど!あんな雰囲気のなかに突っ込んで行く勇気無いし!)
 テーブルに突っ伏したまま目だけで壁に掛かった時計を見上げれば、時刻は3時過ぎ。…いくらなんでも食べ終わってくれただろうか?
 そんなBの思考を読んだかのように休憩室の扉が開き、陽気なシェフが姿を現した。ご機嫌に鼻歌なんぞ唄いながら。「ほうら、ちょっと遅くなったけど、今日のおやつだぞー」
 デイビッドが笑顔でスィートポテトを差し出した。
 まだほっこりと温かく、黄金色した舟形のそれは、先程のオムライスを彷彿とさせた。
「わあ、美味しそう。今日もデイビッドさんが?」
 普通の屋敷なら訊くまでもなくコックがおやつを作製するのは当たり前だ。だがここデーデマン家では執事であるセバスチャンが13年間おやつを作り続けている。しかも美味い。
 しかしここ最近「ハニーは忙しいから」とおやつ作りを買ってでているデイビッドだ。

「それでデイビッドさん。どう、なりました?」
 ちゃんと仲直りできたのか、自分に対して何か言っていなかったか、との意味での質問だったが。
「引き分けだ!」
 デイビッドはニカッと笑って少し外れた返事を返す。ビシィッと親指を立てて。
「引き…?」
「引き分け!」

 それが例の『国旗倒しゲーム・オムライス杯』の結果だと察したのはデイビッドが軽くスキップを踏みながら休憩室を出ていった後だった。


(やったの?やったのか、食べさせ合いっこ!?ありえなーい!!!)

 休憩室には己の想像力の限界に身悶えするBと、会話から何やら腐った臭いを嗅ぎつけて同僚の口を何としても割らせようと企むツネッテだけが残された。







 


タイトルでお察しの通り【ごちそうさまでした。】に続くデビセバカップルシリーズ第2弾。(シリーズだったの?!)
単独でも読めるようにはしてあります。が、よろしければ併せてお読みくださいませ。


他作品と何が違うかと言うと、セバが完全にデレ期突入です(笑)。

お付き合いいただき有り難うございました。
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