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□秘密の恋人
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俺が上司であるロイ・マスタングへの恋心に気付いたのが1年前。
様々な葛藤ののち告白をしたのが半年前。
いけいけ押せ押せな俺の猛プッシュに絆されたか諦めたかして大佐がとうとう首を縦に振ってくれたのが1ヶ月前。
こうして俺達は恋人同士になった。
【秘密の恋人】
「ご機嫌ね、ハボック少尉?」
「え?そう見えますか?えへへへ」
顔が自然と弛んでしまう。視界に映るもの全てがピンク色の霞がかかっているような気がするから不思議だ。それが全然不快でないのがもっと不思議だ。
「何か良いことでもあったのかしら」
「いや〜良いことっていうか。実は今日、恋人が仕事休みでー」
「ああ…ひと月ばかり前に拝み倒さんばかりに口説き倒したっていう…」
なんで中尉がそんなこと知っているんだろうか。
俺と大佐がそういう関係だってことは誰にも言ってない。勿論中尉やブレダ達『マスタング組』にも、だ。
彼女たちが偏見を持っているとは思わないし、きっと祝福してくれるだろう事は疑わないが、やはり何が切欠でドコに洩れるか分からない。
あの人の出世の妨げになるようなことは断じて避けなければ。
本当いうと皆に吹聴してまわりたい。あの人がどんなに可愛いか報告と言う名の自慢(のろけ)しまくりたい。
いつかは仲間達には知れる事となるだろう。それまでは、二人だけの秘密だ。
秘密の共有は手っ取り早く人の仲を深めるという。
誰も知らない、俺と大佐の二人だけの、二人だけの、二人だけの!秘密!(強調するため3回言った)
それに、あの人に誰よりも近しいと思われている背中を預かる副官や十年来の付き合いの親友である髭眼鏡でさえ知らない事を、俺だけが知っている、この優越感。
だけど今はその優越感に浸り、秘密の共有を楽しむために。
あの人は俺だけの、秘密の恋人。
「…そうね、お休み、ね。それで?終業後デートの約束でも?」
中尉は何故か主が不在の大佐の執務机をチラリと見てから俺に視線を戻す。
「いや、デートじゃないんすけど…。その恋人がですね、付き合い始めて最初の非番だから、俺の部屋で色々家事をやってくれるって言うんすよ〜。いやー意外と世話好きっていうか可愛いこと言ってくれるなっていうか愛されてるなーっていうか。帰ったら綺麗な部屋でご飯の準備できてて洗濯物とか畳んでた手を止めて『お帰り、ハボック』なーんて言ってくれるかと思うともう、嬉しいやら幸せやらで自然と顔がゆ」
「すぐに帰りなさい」
「るんで…は?」
俺の言葉を遮るようにピシャリと鞭打つような声音で中尉が宣う。その表情も険しい。
もっと柔らかく言ってくれれば俺のノロケに当てられて早く恋人の元へ帰してやろうとの温情かと思えるが、いかんせんそれは無理だ有り得ない。だって中尉だもん。
俺のセリフの何処に触発されたのか、喋っている合間に段々と表情が曇り考え込むそれになっていったのは気付いていたが。
「帰りなさい、すぐ。今すぐに」
「え…いや、あの…?」
ちなみに現在時刻ヒトロクフタナナ。日勤終業時刻までまだ1時間以上ある。
「えーと、まだ4時過ぎっすけど…?なんで急にそんなことを…?」