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□いつでもいっしょ
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【いつでもいっしょ】



 その日、東方司令部司令官ロイ・マスタング大佐は副官からの『お願い』にショックを受けていた。
「大佐。しばらく一般食堂は使われませんようにお願いいたします」
「なぜだっ?!」
 多くの軍人たちにとって憩いの時間、ロイにとっても例外ではなく。それはそれは大事な時間なのだ。



「よーするに、あの二人が一緒に食堂利用しなけりゃいいんじゃないですかね」
 面倒くさそうに提案したのはハイマンス・ブレダ少尉。
「あまり佐官は一般食堂を利用しませんしね」
 重々しい相槌とともに返事をしたのはヴァトー・ファルマン准尉。
「えー…、どうしてですか?お二人とも仲がおよろしいのに…」
 不思議そうな表情で上官二人に訊ねるのはケイン・フュリー曹長。
「お前…食事時のあの二人みて何とも思わんのか?」
「思いますよ!『お二人とも仲が良くって羨ましいなー』って」
 駄目だこりゃ。ブレダとファルマンが同時にため息を吐いた。『仲がおよろし』過ぎるのが問題だというのに。
「中尉はどう思います?」
 黙して語らず、皆の意見を聴いていたリザ・ホークアイ中尉に話を振れば、
「仕方ないわね。暫くの間大佐には食堂利用を諦めていただきましょう」
 イコール=ジャン・ハボック少尉とのラブラブ食堂デートを阻止する。の意味だ。
 こうして『影の女帝』ことホークアイが上司に『お願い』するに至ったのである。





「なぜだ、と申されましても…」
 言いにくそうに口ごもるかと思いきや、
「迷惑だからです」
 ビシリッと擬音が聞こえてきそうなほどの物言いに、側にいたブレダとファルマンは内心喝采を上げ、フュリーは泣きそうになっていた。
「食堂利用の者達から苦情が上がっております」
「くじょ……あれはっ」
「…あれ?」
「私だけが悪いんじゃない!ハボックにも責任があるだろう!?」
 傍迷惑なバカップルの自覚があるのかとホークアイが目線で促すように見つめれば、居心地悪い面持ちでロイが口を開く。
「だから、今日の昼の事じゃ、ない…の…か?」
「昼に……何をやらかして下さったのでしょう、大佐?」
 ニッコリと。美しいのに見る者を凍らせる怜悧な微笑を浮かべたホークアイにロイが及び腰になった。




 
 
 今日の昼休み。いつものようにイチャイチャとピンクな空気を撒き散らしていた二人に周囲がウンザリしたりゲンナリしたりウラヤマシがったりしていた。
「大佐、クリーム付いてますよ」
「ん?どこだ?」
「こっちです」
 ロイが反射的に手を当てたのとは反対の口元をハボックが長い腕を伸ばして親指で拭う。
「ほんと、子供みたいなんだから…」
 そのまま親指をペロリと舐めるハボックに、ロイが頬を微かに朱に染めた。年下のくせに母親が幼子にするかのような態度に嬉しいような、恥ずかしいような、悔しいような。
 内心複雑な思いでハボックを見れば、いいモノを見つけたとばかりに瞳が輝いた。
「お前こそ、口元にパン屑が付いてるぞ」
「え?」
「こっちだ」
 やはり反射的に頬にやった手は反対方向で、仕返しをしてやろうと嬉々として腕を伸ばしパン屑を取った。
 だがその瞬間、ロイの手はハボックのそれにやんわりと掴まれ、軽く引かれた。
 見る間にパン屑を摘んだロイの親指と人差し指をハボックがパクリと口の中に含み……
「ありがとうございます、大佐」
 手を離しにっこり微笑む。

 次の瞬間。
 ハボックが燃えた。

 
 
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