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□夢と憧れの新婚さん択
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【夢と憧れの新婚さん択】



 いつものように、仕事終わりに自室へ戻らず、セバスチャンの部屋へと行く。
 ディビッド自身それを不自然なこととはまったく考えてはいない。

「だってフーフみたいなモンだし!」

 というのは本人の弁。

 今夜も軽い足取りで鼻歌なんぞを口ずさみつつ、ノックもせずに扉を開けた。
 一応声を掛けながら。

「ハニー! 入るぞぉ〜!」

 扉を開き、部屋に足を踏み入れたとたん、体に軽い衝撃を受けた。瞳に映るのは艶やかな黒絹の髪。
 首に抱きついてきていたセバスチャンが腕を緩めて少し体を離す。ディビッドと視線が合うと、なんとも可愛くニッコリ微笑み、

「お帰り、ディビッド」

 なんて、これまた可愛らしい声で言う。

「ただいま、ハニー!」

 此方も満面の笑顔で、彼の腰の後ろに腕をしっかり回した。

「ディビッド」
「ん?」
「ご飯にする? お風呂にする? それとも………、俺?」

 ほんのりと頬を染め、もじもじと視線を逸らし、最後の方はだんだん小声になっていったりと恥じらう様を見せたりする。
 そんな愛しい恋人の仕草を前にして、ディビッドの心臓が高鳴り、一気に頭に血が昇った。

「もちろんハニーに決まってるじゃないかーー!!」

 殆ど絶叫といってよい叫びと共に、セバスチャンをグワシッと掻き抱いた。そのふかふかふわふわの柔らかな感触にグリグリと頬ずりする。と、

「……何が『俺に決まってる』んだ?」
「ほえ?」

突如頭上から声が降ってきた。しかもその声は聞き間違いのようのない、今抱き締めている恋人の声だ。

目を開けば瞳に映るのは、ふかふかふわふわなビッグサイズ枕。ついさっきまで、セバスチャンだったのに! そして見上げた先には呆れたような表情のセバスチャンがいた。しかもどういう訳か逆さまで。おまけにどういう訳か半裸で。

「ワーオ、ハニー! ニンポー変わり身の術か? んでもって天井ぶら下がりの術か? そして出血大サービスか?」
「…寝呆けているのか?」
「んあ?」

険しくしかめられた表情に、盛大な溜め息を漏らし、セバスチャンがバスタオルで湿った髪を拭いた。
ディビッドも落ち着いてあたりを見回してみれば、自分は枕を抱えてベッドに寝転んでいた。逆さ吊りになっている…と思われたセバスチャンは単に逆方向から覗き込み、見下ろしていただけだった。

「まったく。ここは誰の部屋なんだ?」
「ハニーと俺の愛の巣だな!」
セバスチャンのイヤミを全開の笑顔で返す。しかも恐らく本心だ。

(あー夢かー。そうだよなぁ)

いつものように部屋を訪れたものの、いつものように多忙な執事は留守で、いつものように勝手にベッドに上がり込んで待っているうちにすっかり眠ってしまったらしい。

「いやいや、今からでも、夢の続きを。ていうか正夢にだな…」
「何をブツブツ言っている」

ディビッドはピョコンとベッドから跳ね起きると、先程の夢と同じように、セバスチャンの腰に手を回して抱き締めた。違うのは、セバスチャン
の腕がディビッドの首に回っていないことだ。

「お帰り、ハニー」
「帰ってきたのは結構前だがな」

相変わらず不機嫌そうな表情のままだが、拒絶する素振りは見せなかったので、ディビッドは大いに調子にのった。

「ご飯にする? お風呂にする? それとも、俺?」
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