NL
□お前は俺のもの
1ページ/1ページ
ここは奥州、伊達政宗が居城。
その城の一室で一人の女が座り込んでいた。
ただ何をするでもなく、彼女は障子の隙間から覗く空を見ていた。
転々と浮かぶ雲の隙間から覗く青空。
暫くの間ただぼうっとその空を見つめていると、向こうの方から騒々しい足音が聞こえてきた。
聞き覚えのあるその足音は一直線に此方に近付いてくる。
「…政宗様」
どうやらまたあの人が来てくれたようだ。
…ここでの、市の唯一の話し相手である彼が。
「Hey 市!調子はどうだ?」
ギシギシと廊下を軋ませ此方に向かってきたのはこの城の主、伊達政宗だった。
彼は遠慮無しに部屋に入ると市の隣までやって来て、ドカッと腰を下ろした。
「って顔色悪りぃな」
「……大丈夫」
「…嘘吐くんじゃねぇよ。本当は全然大丈夫じゃねぇだろ。こんな顔色して嘘吐くな」
こうして自分が話し掛けていると言うのに顔を一向に此方に顔を向けようとしない市。それに痺れを切らした政宗は、彼女の顎を掴み強制的に視線を合わせる。
「市…」
途端、不安に染まった綺麗な漆黒の瞳が此方を見つめた。
ああ、そうか。
彼女は何かを思い出したんだ。
きっと、彼奴に関する何かを。
だからこんな表情をしているんだろう。
「何か、思い出したのか」
「………」
「…何を思い出した?」
口を噤み、何も話そうとしない市に政宗は固い声で問い掛ける。
今までこんな彼は見たことがない。
そんな政宗の様子に、市は肩をビクリと震わせると意を決した風に恐る恐るその愛らしい口を開いた。
「……"長政様"。まだよく、分からないけれど。夢の中の市が、長政様!って泣きながら叫んでるの。市…その夢をみるとね、心の臓辺りがすごくすごく痛むの」
「っ……他には?」
「これだけしか、分からない…」
心臓がバクバクと鼓動を速めたのが分かった。
そして"浅井長政"彼の存在が彼女にとってどれほど大きな存在だったのかを思い知る。
同時に、どれほど深く思っていたかも。
記憶を失っても尚、大切に思うのは彼奴なのか。
愛おしく思うのは彼奴なのか。
どうして俺じゃない?
そんな醜い感情がきつく胸を締め付ける。
ああ、俺は、彼奴に嫉妬しているんだ。
市に愛されている彼奴に、浅井長政に。
醜い嫉妬心を持っている。
「市、俺にはお前しかいないんだ」
「政宗、様…」
市にすがりつく様に彼女抱き締める政宗。
それはまるで、市を離さないように、離れていかないようにしているかの様で。
お前には俺しかいないんだと、離れて行かぬよう縫い止めるために、今日もまたこうして彼女に擦り込むんだ。
「なぁ市。…愛してる」
「……市もよ、政宗様」
お前は俺のもの
(例え君が応えてくれなくとも)(それは未来永劫決して変わらない現実だ)
――――――――
少しゆとりが出来たので更新しました!
これからもスローペースだと思いますが、何卒宜しくお願いいたします。
執筆日:4月24日