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□貴方の隣で
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市は、長政様の側にいたいの。
なのに…
なのに、なのに…
なのに、どうして兄様は市の邪魔ばかりするの?
「い、市。お前は逃げろっ!!」
市を庇って明智光秀率いる鉄砲隊の銃弾に身を貫かれた長政様。
その体がゆっくりと地に倒れていくのが、非現実的なものを見ているかのように市には思えた。
「長政様っ!」
長政の体を掻き抱きその手を己の両の手で握りしめ、額から血を流しながら逃げるよう呟く彼の言葉を市は泣きながら聞いた。
「嫌、嫌嫌いやいや…」
「聞、け!聞くんだ、市!!お前は…生きろっ」
「嫌、市は長政様と…ずっと一緒がいい」
そんな会話の中にもごほごほと咽せて血を吐き、ぐぅっと苦しげに呻く長政に、市は最後が近いのだと嫌でも悟る。
これも全ては市のせい。市さえ兄様の言うことを守れば、長政様は死ぬことがなかったのかもしれない。
漆黒の闇が市の周りを包み込んだ、その時。
「い、ち。…私は、お前に…っごほ、感謝しているっ。お前が、私と、共にっ…居てくれたこと、共に、過ごした日々…とても楽しかったぞ」
長政のその言葉に市の周りを覆っていた漆黒の闇がゆっくりと消え失せていった。
その間長政は瞼を何度も落としてはゆるゆると持ち上げる動作を繰り返す。先程よりも青白くなった彼の表情に僅かに笑顔が浮かぶ。
「い、ち。泣く……な」
「…なが、まささまっ!市も…市も楽しかったよ?だから、これからも、市の側にいて?」
貴方の隣
(冷たくなった長政様。いつまでも市は一緒にいるよ?ずっと…ずっと)
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何か危ない感じ?
死体愛好家…とかではないですよ?
長政様だからです。
それだけ市は長政様が大切で大好きで愛しているんです。
2010.2/4 執筆