海路

□気付く時間【ウサビ】
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弟と自分の仲は双子なのに、と言われるほど悪かった。

しかし身の回りのことは自分に不易なことが得る場合、手伝ったり手伝ってくれる時があった。

マフィアにとって時間は厳守すべきもの。

気まぐれで風呂に入り、髪が濡れている時。

そんな時弟は何も言わず乱暴に頭を拭くとドライアーを取り出し乾かした。

その弟が気まぐれで人を殺した時。

自分は何も言わず新しいスーツの新調を頼んだ。



知らず知らずに助け合っていた。



何故と訊かれたら答えられない。



ただ、今そこに居る男が。

容姿も。
声も。
何もかも似てはいないのに。

自分の弟にそいつは酷似していた。




「懐かしい・・・」

ふと、呟いていた。

隣人は。

「何をですか?」

と首を傾げる。

答える気にはなれなかった。
なれない、はずなのだが。
弟に、話すような。

そんな懐かしい感情が込み上げてきて。


そして。


今まで感じたことの無い感情に襲われて。

「・・・ただ・・・似ているから」
「貴方の大切な人にですか?」
「・・・大切か・・・分からない」

顔を俯かせ。
緑色の瞳から目をそらす。

普通なら。

ありえないのに。

「でも、忘れないなら大切な人ですよ、愛してたんじゃないですか?」

愛していた?

その言葉が脳内でぐるぐる回る。



そして。



やっと。



気付いたのだ。



「そうか・・・」


目を細める。



「俺は・・・」



目を閉じる。



「気付かずに愛していたのか」



隣人が髪の毛に触れてくる。

嫌じゃなかった。

寧ろ気持ちが良かった。

その手すら。
弟に感じる。

「嫌よ嫌よも好きのうちですよ」

その言葉に。

何故か救いを求めたくなった。

弱い人間ではなかったはずだ。

しかし。

失う事の重大さに、今気が付いた。



柔らかそうな桃色の唇。
引き寄せて吸い付く。

人を愛する事に気が付いた。

欠落していた一部が、甦ったようだ。

母親の腹の中に置いてきたと思っていたそれを、やっと取り戻したようだ。


貪る。
貪る。

弟に出来なかった分。
キレネンコはプーチンに一杯の愛を注いだ口付けをした。

愛なんて。

似合わない男。

そして最後に思いっきり。

床に唾を吐き捨てた。

Fin
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