長距離海路

□The villain is humanity
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「あら、貴方から私に依頼なんて、珍しい事ね」
「それを言うなカピターン(大尉)バラライカ、少し面倒なヤマにぶち当たっちまったんだよ」

高級牛皮の紅いソファ。
アンティークな本棚にクロムの机。
そして目の前には火傷顔(フライフェイス)の綺麗な女性。
キレネンコの隣で身を固くするプーチンはその部屋の豪華さに溜め息をもらしていた。
現在キレネンコ一派は故郷ロシアを亡命し、タイの無法地帯「ロナプロア」に身を置いていた。
数週間は大人しく土地勘を養っていたキレネンコは今日プーチンを連れてこの辺一帯の統率者であるミス・バラライカに挨拶兼依頼に来たのだ。

「で?依頼ってのは」

葉巻の先を専用カッターで切り離しながらバラライカはキレネンコに訊く。
すると彼は何時作ったのであろう、難しい事が書いてありそうな書類を数枚取り出し、彼女に手渡した。

「ここら一帯に詳しいのはカピターン・バラライカだけだ、有能な情報屋と逃がし屋(ゲッタウェイドライバー)、そしてヨランダの婆に武器申請届けを出しといてくれ」

キレネンコはそういうと彼女に葉巻を勧められるがままに一本とり、同じく先を切るとプーチンは思わず条件反射で胸元のポケットに入れてあったジッポを取り出し火をつけた。
彼はそれを見て何も言わずに火を貰う。
そして美味そうに煙を吐いた。

「あら、可愛い子、貴方がこんな純情な同士と手を組むなんて珍しい事もあるものね」

バラライカはプーチンに笑いかけた。
プーチンは顔を赤くして同じく笑い返した。
すると横目でプーチンを見、キレネンコは小さく呟いた。

「カピターンに嫌われなくて良かったな」

少し香味の匂いがする甘い葉巻の煙を吐き出して、憂鬱そうな光を灯すキレネンコの瞳。
まだ悪党稼業に入ったばかりのプーチン。
その意味を知るのはもう少し後。

「とりあえずヨランダにはマカロフでも発注して貰おうかしらね」
「頼む、後書き忘れたんだがいざと言う時用にシカゴタイプライター1丁だ」
「ダー(了解)」

コレがキレネンコさんの本当の姿なのか・・・。
と、プーチンはそう思いながらキレネンコとバラライカのやり取りを見ていた。
そしてキレネンコが葉巻を吸い終わると同時に立ち上がり、少し伸びた襟足を靡かせこう言った。

「出来れば有名なラグーン商会とコネを作って欲しい、カピターンなら可能だろう?」
「ええ、期待しておいて、貴方と私の仲だもの」

それ以上キレネンコは何も言わずその場を立ち去り、プーチンは慌てながらその後を付いて行った。
その後姿を見ながらバラライカはくすりと笑う。

「あの子も丸くなっちゃって」

そして2本目の葉巻に口を付けた。
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