海路
□神のみぞ知る【ウサビ】
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神のみぞ知る。
英語で言うとGod knowsだ。
第二次世界大戦時の落し物である、プーチンのような戦争孤児にマザーライノが教えてくれた唯一の英語である。
人間は毎日5億の事を記憶して4億9千の事を忘れるが、プーチンは如何なる時もこの言葉を忘れなかった。
神聖的で。
残酷なこの言葉を。
「Got knows・・・か」
手に持っている角砂糖を眺めながらポツリと呟く。
すると正面でスニーカーを磨いていたキレネンコが横目でプーチンを見た。
プーチンは少しバツが悪そうな顔をして頭を掻く。
それが分からない、と言いたげな目をした後、キレネンコはボソリと呟いた。
「・・・神のみぞ知る・・・」
緑の瞳が輝いたのを、彼は見逃さなかった。
「すごぅい!ネンコさん英語できるんですね!!!」
うざったいな・・・。
と、キレネンコが言ったか言わなかったかはいいとして。
興味を持ったプーチンを止めるのには骨が折れる。
普通の関係。
とはもう言えなくなった2人なので、遠慮なく緑は色々聞いてくるようになった。
仕方ないので。
付き合うことに。
「少しな、ガキの頃から齧った程度だ」
そっけなく返しても、彼は挫けない。
まだ情報を聞き出せないかと言うように、キラキラした目で見つめてくるのでたまったもんじゃない。
軽く溜め息をついて。
キレネンコはボソボソと話し始めた。
「基本的に、“I”が自分“You”がお前を指す・・・もし、お前が俺に英語で愛してると伝えたい場合は・・・“I love you”で米人には通じるはずだ」
頬を真っ赤にさせて新しい知識を嬉しそうに吸収するプーチン。
他には他には!?
と言いたげな顔を見て、ポツリと呟く。
「“I Hate you”」
それは自分を好きで言ってくれたのかな?
と、勘違いする馬鹿をほおって置いて彼はまた雑誌に意識を戻した。
何時もだったら。
無視するはずの存在。
だが何故かその異国の言葉が。
妙に自分をひきつけた。