短編小説文
□reunite
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時は戦無き安泰の世。
265年間にも渡って世を制した徳川一門の、
第3代、家光候の時代。
十字架を持つことを、禁じられた時代―
『reunite』
「昌介(ショウスケ)!!」
広い空の下、青い草原を裸足で駆けて行く少年がいた。
彼が向かう先には浅葱(アサギ)色の衣を着た少年が立っている。
「竜(リュウ)」
昌介と呼ばれた少年は彼に気付き大きく手を振った。
彼らの声に気付いた野鳥が、パタパタとそこから飛び去っていく。
ハァハァと肩で息をしながら嬉しそうな顔をする竜に、昌介は苦笑しながら尋ねた。
「どうしたの?そんなに走って」
「お、俺…俺…」
「うん」
「…武士になれる!」
竜の言葉に、昌介は目を丸くした。
どれだけ走って来たのだろうか。
こんなに涼しい秋風が吹いているのに、竜の藍色の衣は汗でびっしょりだ。
「武士…?」
「そうだ!!」
「でも…俺達農民は…武士にはなれないんじゃ…」
「でもなれるんだよ」
にかっ…と竜が歯を出して笑う。
「榛葉(ハシバ)様の家臣の人数が足りないらしくてさ」
やっと整ってきた呼吸で竜が話し出す。
「俺、さっき一人で剣振ってたんだ。そしたらちょうど榛葉様の一行が通ってさ、俺に“わしの家の門を守ってくれぬか?”って言われちゃって。どうやら家臣を増やすみたいなんだ」
榛葉の声真似をしながら竜は昌介に説明する。
「父ちゃんと母ちゃんにも話したら喜んでくれた。だから昌介にも伝えなきゃと思って走ってきたんだ。なんたって榛葉様は徳川一門に仕える側近の家。俺はそこの家臣になれるんだからな!」
「………」
「凄いよなぁ、武士だぞ?今まで16年間生きてきた中で一番嬉しいぜ」
輝くように笑う竜を、昌介は少し寂しそうに眺めた。