サイドストーリー

□冬の恋人達
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日本の自宅を出てから4時間。
駅を出て、タクシーに乗り、辿り着いたのは優雅な雰囲気漂う老舗旅館。
門前には見事な椿が咲き乱れ、訪れる客人を歓迎している。

「ここか?」
ウィンが旅館を眺めながら雄飛に尋ねた。
「うん。ここだ。旅館風月…、名前もあってる」

雄飛が手にするのは『特別招待券』と印刷されたチケット。
本来これを持ってここに来るはずだったのは、姉の梨恵だった。
だが残念な事に一緒に行くはずだった恋人が風邪に倒れ、偶然日本に帰ってきていた雄飛に譲ってくれたのだ。

「すっげーなぁ、ラキアのビルとはまた違った圧巻があるというか」
「俺もこんな高そうな旅館泊まるの初めてだよ。姉ちゃんも勿体無い事したよなー」
彼氏じゃなくても、友達誘えばよかったのに。
そう言った雄飛に、ウィンはニヤリと笑みを浮かべて、マフラーに巻かれた雄飛の肩を抱き寄せた。
「バカ。泊まりは恋人同士に決まってんだろ。さすが梨恵は良くわかってるぜ」
「姉ちゃんは俺達の事知らねぇだろ」
「細かい事は気にしない、気にしない」
「ウィン、浮かれてない?」
「浮かれちゃワリィかよ。雄飛だって新幹線の中ではしゃぎまくりだったくせに」
「はしゃいじゃ悪いかよ。楽しみだったんだもん、今日」
「ならお互い様だな。ほら入ろうぜ」
「…うん」

日本にいてもウィンにリードされてる感じに一瞬情けなくなったが、そんな感情もすぐに消えさった。

何と言ったって、今日から2日間、ウィンとこの秘境の地で2人きりの旅行なのだ。
浮かれるなと言う方が難しい。


「いらっしゃいませ」
玄関に入った途端20人程の従業員に迎えられた。
「こ…こんにちは。予約していた黒崎ですけど」
「はい、存じております。外は寒かったでございましょう?今日はこれから雪が降るようでして…、さぁお上がりになって下さいな」
着物の似合う、初老の女性が雄飛とウィンを迎え入れた。
おそらくこの旅館の女将なのだろう。
堂々とした威厳ある姿は、他の従業員とは一味違って見える。
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