サイドストーリー
□涙の味
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「キルギス、朝だよ」
パタパタと肩を叩かれてキルギスは目を覚ます。
あれから十日。
2人はたどり着いた街の宿屋で、下働きとして働いていた。
まだ12歳だというのに、大人にも負けない働きっぷりに、宿の店主はキルギスとシュウを可愛がってくれた。
「…めんどくせぇ」
「何言ってんの。僕達はお金貰ってるんだから」
「…わかってるよ。ちょっと言ってみただけだろ」
与えられた屋根裏の狭い部屋を出て、店主やその他の従業員に挨拶をしてから、水を汲んで最初は風呂掃除。
それが日課だ。
結構な重労働なうえ、賃金は少ない。
だが、決まった額の給料と、そして毎日の賄(マカナ)いがあるだけでも、村と比べれば雲泥の差だ。
そんなある日の陽も暮れる頃、店主が2人を呼びに来た。
「今日は客も少ないし上がっていいぞ。食堂に夕飯を置いてあるから、冷めない内に食べな」
「ありがとうございます!」
汗を拭いながら、やっと食事だと2人は笑った。
赤ら顔の店主は、いそいそと手を洗う2人の横にトン、と何かを置く。
「ほら、毎日頑張ってる褒美だ。メリージュース。うちの宿じゃ一番高価なジュースだぞ」
それぞれをテーブルに置き2人が礼を言う間もなく去っていく。
「…一番高価だってよ。どんだけするんだ?」
「わかんない…けど、美味しい」
「…初めて飲ん
だな。……こんなジュース」
「…………ね」
何となく無言になって、ストローですする音だけがする。
ついこの前までは、お腹いっぱい食べることも飲むことも出来なかった自分が…と、考えている事は同じだった。
やがて、瞼が重くなってくる。
「…なんか眠いね」
「…今日も仕事したからじゃねぇ?」
「食器片付けて、部屋に行こうよ」
「あぁ」
けど立ち上がった足が、上手く動いてくれなくて。
変に思ったキルギスの目の前で、シュウが倒れた。
「…シュウ!?」
慌てて抱き起こそうとかがんだ瞬間。
「───…っ」
キルギスの意識もプツリと途切れた。
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