長編小説
□†Prismatic HeartsZ
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◆chapter 32
「ヘベルの警役人が皆殺し…?」
リュオンと、隣に座るキアが眉を寄せる。
兄が運転する車の中で、雄飛は神妙な顔で頷いた。
「やったのは、リゼって子だよ」
「…リ、リゼ…?」
キアが驚いた様に振り向く。
「そんな、どうしてリゼが…!」
「聞きたいのはこっちだ。あいつはしきりに"キア"の名前を口に出してたぞ…?だから俺や機動隊のみんなは驚いたんだ。キアが兄ちゃんとペアを組む賞金稼ぎって知ったときは」
3人の車の前を幻討隊の四駆が、さらにその前をウィン達機動隊が走っている。
雄飛のバイクは自動操縦でリュオンの車の後を走ってきていた。
もちろん、雄飛達の会話を全員が通信機で聞いている。
「リゼか…、確かにたまに会う度に、キアによくなついてるとは思ったが」
「………」
「なぁ、キア。あいつ、"赤"は好きだけど"青"は嫌いって言ってたんだ。どういう事なんだ?」
首を傾げた雄飛にキアは少し黙って、それからゆっくりと口を開いた。
黒いフードの下、灰色の瞳が雄飛に向けられる。
「リゼは、俺と同じ吸血鬼の末裔にあたる子なんです」
「…まだ13歳だったか?」
リュオンが運転しながらキアを一瞥した。
「はい。今度やっと14歳になります。
…私達吸血一族には、必ず4本の牙と幻術として使える魔力が備わります。私はその末裔…、一族の中でも特に大切に育てられました」
「…………」
「けれどあの子は、同じ末裔の子であるはずなのに一族から疎外された。リゼは、"出来損ない"だからと」
「…出来損ない?」
雄飛が眉をひそめる。
「4本生えるはずの牙は2本。幻術が微量しか発揮出来ない程の魔力。……吸血鬼としては少し…弱い者として生まれたんです」
バイクを運転しながら話を聞いていたウィンは、キアの言葉に納得した。
(だから、殺気は凄くても感じる魔力はいまいちだったのか…)
「一族はリゼの親を殺しました。出来損ないの子供は吸血鬼の恥だと言われてしまうのです。それでなくとも吸血鬼の数が減っていた時…、リゼは吸血一族の絶滅の象徴だとされました」