長編小説
□†Prismatic HeartsX
2ページ/32ページ
◆chapter 20
「それは…、まだ完璧には抜けていないという事ですか」
「はい」
ウィンの言葉にノーライトは頷いた。
研究所の客間にあるソファに、2人は向かい合って座っている。
「クロサキ君が頭の痛みを訴えた直後、一気に体温が上がって高熱状態になりました。これは間違いなくXLpの作用によるものです。意識が戻った時点で、薬の濃度は殆ど害のない値まで下がったはずですが…」
「…少しでも残っていれば、まだ雄飛に何かあるかもしれない」
「はい。強力な毒薬を薄めるには、強力な解毒剤が必要です。ですがそれもまた、採り続ければ身体に影響が出てしまう。副作用…とも言いますが。それを避けるために、クロサキ君の意識が戻った時から投与量を減らしました。それが原因でもあるかもしれません…」
「………」
「しかし毒薬にも解毒剤に対する免疫が出来てくる。ということは、あのままの量を与えていても、毒薬を完全に無くす為にはさらに多くの解毒剤が必要になるのです」
「…それはそれで、何だか良くない感じですね…」
ウィンが苦笑すると、ノーライトは真顔のまま再び頷いた。
「実際良くないのです。だから、害が出ないと言われる規定値に達した時、私は解毒剤の量を大幅に減らしたのですから」
ですが…と、ノーライトは続ける。
「微量の毒薬でも、クロサキ君の体組織を糧に害を及ぼす可能性が出てきた…。高熱の原因になったXLpの作用が偶然だったのならいいんですけど」
「しかし規定値に達しているなら、殆ど普段の生活に支障が出る様な害は無いんですよね?」
「それは大丈夫です。でもクロサキ君は今、"普通の健康な人間"とは言い難い。"記憶喪失"という、非常に不安定な状態にあります。それは精神的にも体力的にも」
「体力的にも…?」
ウィンが首を傾げた。