長編小説
□†Prismatic HeartsU
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◆chapter 4
「あ、あったあった!あれだよ、雄飛」
暁が指を差す。
その先にあるのはラキア中央駅だ。
雄飛も見慣れたその場所に、本当に日本に繋がる道があるのだろうか。
思わず眉根を寄せれば、その表情に気付いた暁はしたり顔でとある一点を見つめる。
「あれって中央駅だろ。あそこから帰れるのか……?」
「うん。俺はあの駅からここにたどり着いたんだよ。実質的には、あそこにある鏡から、だけどね。……少しだけ急ごう。もうすぐ6時半だ」
「6時半…?まだ朝の10時だぞ」
「あっちの世界は、今は6時25分なんだよ」
暁は苦笑すると、雄飛の手を取って走り出した。
触れた場所から親友の体温が伝わってくる。
興奮したように熱いその温度に、雄飛もつられるように気分が高揚するのがわかった。
成績のいい暁には、昔から色々と頼ってきた。
だからだろうか。
気にもしなかった駅の鏡を視界に入れた時、ここはきっと渡れると妙な確信があった。
暁が言うなら間違いないと、そんな気持ちが心の奥底にあったからかもしれない。
「早く、雄飛!…5分後には惺城学院だ……!」
「………、あぁ!」
雄飛は暁の言葉に、笑って頷いた。
駅前広場の前。
入口近くに設置された鏡。
姿見として用意されたというよりは、入口を彩るデザインの一部としてはめ込まれているのだろう。
縦に長いそれは学校にある鏡より少し大きいくらいで、雄飛と暁が2人並んでもまだ余裕がある。
暁の声を合図に、雄飛は鏡に手を触れた。
ずるりと引き込まれるのと同時に、奇妙に歪んだ空気の中を物凄い速さで通り抜ける感覚。
それはジェットコースターで一気に落ちる時に似ていて、身体の中の色々な器官も宙に舞っているような浮遊感がある。
(この感じ…覚えてる。……1年前と一緒だ)
ほんの数秒後。
奇妙な感覚は消え、硬い床に尻餅を付いたのがわかった。
止めていた呼吸をゆっくりと再開し、空気を身体いっぱいに吸い込む。
「…………」
そして、恐る恐る目を開けた。
少し蒸し暑い広い空間。
夕暮れのオレンジに染められた、何色ものラインテープが引かれた床。
遠くから聞こえる、ひぐらしの鳴き声。
そして、両脇に設置されたバスケのゴール。
「……おかえり、雄飛」
呆然とする雄飛の後ろで、暁が微笑んだ。
「…た……、ただいま……」
暁の方に向き直りながら、雄飛は懐かしい学校の空気を身体中に感じて、涙が溢れてくるのを止めることが出来なかった。
エイラーンとは全く別の世界。
生まれ育った日本。
鳴り終えたばかりのチャイムの音が、空気に溶けるように余韻を残して消えていった。