□一生懸命
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「越野、」


気づいている。

だけど、この手は動かせないよ。


「越野、」


もう一度、そう言うと、仙道は俺の上体をぐいっと引き起こした。


「うわっ…!!」


驚いて、俺は手を顔から放してしまった。

曝け出てしまった、羞恥心の塊の顔。

きっと、間抜けな顔をしているのだろう。

ふっ、と気付けば、息がかかるほどに、仙道の顔が近くにある。

今まで考えてたこと、仙道の前で泣いてしまったこと、仙道に対する気持ち、俺の在り方…。

いろいろな感情が、心の中で渦巻いて、そして、


「やめろ…っ!!離せっ、離せよォっ!!」


何も悪くはない仙道に八つ当たりしてしまった。

拒否してしまった。

何故、と言わんばかりに、仙道が見つめてくる。

その目に、はっ、と息を飲んだ。

寂しく悲しい色が浮び、信頼の糸を必死に手繰り寄せているような、そんな目だった。


「…………俺のこと、嫌いになった…?」


仙道からの言葉が重くのしかかる。

苦しい胸を押さえ、やっとのことで声を絞り出した。


「……き、きらいなわけ、ないよ…。」


嫌いじゃない。

大好きだよ。

こんなにも、こんなにも、胸が苦しくなること、仙道は知らないんだね。


「じゃあ、なんで何も言ってくれないの?なんで泣いてばっかなの?」


小さい子を諭すように、ゆっくりと言葉を紡いでくる。

次の瞬間、仙道の言葉から、俺の涙の真実を知る。


「なんで、もっと、俺を頼りとしてくれないの?」


その言葉に、間髪容れずに答える。


「そんなのっ、嫌だからだよッ!!
頼るばっかで、何もしない奴だって、思われたくなかったから!」


止まらない。

汚い感情が、溢れ出ていく。


「俺がお前に追いつけなくて、みっともなくて、恥ずかしかったから泣いてたんだよッ!!お前は軽々俺の前を走ってって、俺はいつもそこに取り残されてる気がしたんだッ!!」


力の限り、叫んだ。


「俺だけがいっつも一生懸命で、ついていくのに必死で、もがいて、それでも追いつけなくて…。
でも…、」


涙を拭い、仙道の目を真っ直ぐ見る。


「本当に、仙道のことを嫌いだと思ったことはない。泣いてばかりいるのは、俺が弱いから。仙道のこと、大好きなんだよ?もしふられたとしても、そこまで頑張った自分を誇りに思うんだろうな。自己満足かもしれない。だけど、この気持ちに後悔はしてないよ。こんな奴でも、いいのか?」


もう俺は泣いてなかった。

むしろ今まで溜まっていたものを全て吐き出して、清々しい気持ちだった。

そうして、俺は仙道の返事を待っていた。





 
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