□色
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あなたと夕食を食べる。

これおいしいですね、とか、俺の口によく合います、とか、一口ずつ褒め言葉を言ってくれる。

あなたは優しい人だ。

真っ向から俺を見てくれている。

その、真紅の眼で。

俺の心はどこまで見透かされているのだろう。

俺があなたのことを、どういう風に想い、見ているか。

手に取るように分かるのだろう。

嬉しくもあり、また、怖くもある。

口から感情を伝えられない臆病者は、ただ黙って気付かれるのを待つだけだ。

全てが後手にまわってしまい。

そうして俺は、いつも飲み込まれてしまう。






あなたと夜を共にする。

降り注ぐは銀の布。

浮き上がるは白と黒。

交じり、混ざり合い、溶けて。

互いを受け入れ、互いを包括し、自分の色に染めていく。

ごめんなさい。

灰色なんか、汚い色にしちゃって。

黒くて、ごめんなさい。

あなたが思うような、キレイな人格は持っていない。

近づくものを、黒く染めてしまうんだ。






あなたの動きが急に止まる。

快楽の波が引くことはなく、強請るように目を合わせる。

にっこり、少しだけ悲しそうに、あなたは笑った。

そして、こう言い始めた。




 鴉は最初、素敵な白色で、誰からも羨まれる鳥でした。

 だけど、色鮮やかで美麗な羽を持つ孔雀が現れてからは、誰も自分を褒めてはくれませんでした。

 鴉は皆を振り向かせるために、様々な鳥の色を混ぜて体に塗りました。

 その結果、鴉は黒色になってしまったのです。





………、それって、俺が鴉ってことですか?

みんなの目を引きたいがために、わざわざ白を手放したってことですか?


そう言うと、あなたは俺の髪を梳きながら、

違うよ、手放したんじゃなくて、努力したから黒色になったの、って言ってきた。




よく、わからない。

自己欲が強い、俺と同じような鳥ではないか、鴉は。

努力したら、もっと綺麗な色になれただろう。

何故?




続きがあるんですよ、と俺の羨む色は話し始める。


 孔雀が現れた時、鴉は努力して、皆の長所を集めていきました。

 長所を知る、ということは、短所も知っているということです。

 時には、その短所について、相談を受けることもありました。

 そうしていつしか、黒くなってしまっだけれど、鴉は誰からにも頼られる存在となったのです。




…………。



あなたにそっくりだな、って思ったんです、なんとなく。

そうゆうトコ、大好きです。




悪びれもなく、さらっと言ってのけるあなた。


俺はそんな大それた人格は持ち合わせてないし、あなたの望むような人物でもない。

そう思っている。

自覚している。

なのに、なんで………。








こんなにも、嬉しいのだろう…?




自惚れていいのだろうか。

愛されていいのだろうか。

こんな俺が、あなたなんかに。



違うよ、そんなあなただからこそ惹かれたんです。

大好きです、心の底から、信じてください。

自分のことも、俺のことも、好きになってください。




優しく沈み込む低い声、誰もが羨望の眼差しを向ける容姿、才能。

そんな存在から俺は愛されてる。

泣きたくなるほど、劣等感と愛情が満ち満ちている、俺の体内、心。

自分勝手なあなたからのお願い。

だけど、だけど、俺は………。





ただ。





頷くしかできなかった。




               *end*
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