仙→越で19題

□3 単刀直入に
1ページ/3ページ

「お前、はやく写せよ。」


越野は頬を膨らませながら言った。
結局、部活が忙しくて(言い訳じゃないよ)夏休みの課題が終わんなかった。
先生に残ってやれって言われたけど、暑かったし、部活もめんどかったから、帰ろうとしていたのに。


越野に見つかった。


体育館の前をまさに過ぎようとしているときに、大声で呼ばれた。


「センド――!!サボんな―――!!」



だから今俺は、一生懸命答え写しをしている。
ノートの向こうには、Tシャツ姿の越野が睨みをきかせている。


「お前課題出さないと部活出られないんだぜ?知ってたの?」

「え、そうなの?」


「おまえなぁ、もっとキャプテンの自覚を持ってなぁ、」


「そう言う副キャプテンはどうしてここに?」


練習熱心な越野のことだ。
俺のことなんかほっとくと思うんだけど。
まして越野は副キャプテンなんだから、俺の替わりに指示出すはずなのに。
今頃植草たち困ってるかなぁ…。



「うっ、………。それは………、」



少しうつむき加減になる越野。
普段は真ん中で分けている髪が、するりと落ちてきて、容易に表情を窺わしてはくれない。



―――言い訳、考えてんだろうな…。



こんなときの越野は、恥ずかしいのか、絶対に本心を語らない。
だからこうして少しの間考え込み、突飛な言い訳を捻り出す。
そしてぱっと顔をあげて、嬉しそうに嘘を口にするんだ。
まぁ、もう慣れたし。
最初から嘘って分かってるから。
それに、黙って聞いてやるのも優しさだと思うし。



だけど、今日のは違ったみたいだ。





「…だってさ、おまえ来ないと、部活って感じしないし…。」





―――あれ、それって…?


「それって、俺がいないと淋しいってこと?」



ぼっと、音でもするかのように、越野の頬に赤みが差した。



「ち、ちがっ…!!ホラ、試合前だし、一人でも欠けるとヤバいだろ?合わせ辛くなるっていうか…。」




そんな越野が愛おしくて。
無意識に、越野に微笑みかけている自分に気付かなかった。




「な…っ!!なに笑ってんだよ?!俺は部活のことを考えて…っ!!」


「だってさ、越野がここにいるってことは二人いないってことだし。そんな大切に考えてる部活よりも、俺のこと心配してくれてるし。俺って大事にされてるんだなって…。」


「キモチワリィこと言うなっ!!大体キャプテンのおまえがしっかりすれば、俺はこんなとこで油売ってたりしなくてすんだのに…。オラッ、手ェ休めんな!!」



真っ赤になった頬は、しばらく戻らないだろう。
そんな顔見られたくないから、越野はまだここにいる。
そうだろ?
自惚れが体を巡る。



聞きたい。
聞いてみたい。
越野のホントウの気持ちを。




*****
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ