籠
□雨の日には
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「おれ、雨の日はキラいだ。」
越野は時々突発的なことを言い出す。
そんな時はとても返事に困る。
そうか、キライなのか、と言ってしまえばそれで終わりにできるが、そんな受け答えでは越野に嫌われてしまう。
そんなの、嫌だもんね。
「なんで?」
わかってる。
越野が突発的なことを言う時は決まって話を聞いてほしいとき。
だからこの答えが正解。
の筈だけど…。
「………」
今日は理由を話してくれないね。
越野は、雨から自分を守ってくれる傘を、じっと見つめていた。
と言うか、睨んでいた。
少し大きめのその傘は、梅雨空にとても反発するスカイブルーを持っていた。
青空みたい、とこの間言ってたのに。
何がそんなに憎いのやら。
「どしたの?」
聞いてやらないと話さないからね、越野は。
「キライなんだ、雨の日が…。」
うん、だから何でって聞いてるのに。
今度は下を向いている。
水溜りに映るスカイブルーで、越野は青空の下にいた。
「だってさ、傘差すから…、雨の日は…。おまえと……、」
雨音に消されてしまわないように、声を必死に拾う。
「手ェ、繋げないじゃん…。」
聞いて驚き、立ち止まった。
あぁ、そうか。
それは遠回しのお願い。
ごめんね、気付いてあげられなくて。
突発的なことを言い出すのは、君なりの、数少ないおねだりのしるし。
口下手な君なりの精一杯のしるし。
あぁ、とても愛おしい。
前を進む君の顔は朱に染まっているのだろう。
容易に想像でき、顔が自然と綻んだ。
俺はビニール傘をたたみ、数メートル濡れるのを我慢した。
そして、越野に言ってあげよう。
雨の日は、いつもよりずっとずっと近くにいられるよ、って。
*end*