薬と剣

□薬と剣 十三話
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僕とユーマさんは身を低くして採集用ナイフでテントの裏を切って外に出た。
テントは見る間に燃えていく。

「とりあえず、隠れる所を探そう」

小声で言うソーマさんに頷いた。
視界が悪くてよくわからない中を手探りで進んでいく。

「ひっ」

ソーマさんが何かに躓いた。

・・・・・人だった。
僕とソーマさんは固まってしまった。
さっきまで一緒に薬を作っていたエミリオの薬師。

その胸、腹は切り裂かれ、確かめるまでもなく絶命していた。
体が震える。

悲しいと思う間もなかった。
人が近付く気配がする。


同じように震えるソーマさんの手を取り、気配とは反対の方へ音を立てぬよう歩き出す。

「こっちで声が聞こえたんだが」

「本当か?
 どうせまた、別の奴なんじゃないか?」

誰かを探しているようだ。

「どっちだっていいさ」

会話を聞きながら手探りで進む。
進んだ先に茂みがあった。
僕もソーマさんもそこへ身を潜めた。

声は段々近付いてくる。

「何もねぇじゃねぇか。
 ったくよぉ」

「本当に聞こえたんだって」

「まぁ俺たち下っ端が大手柄なんて夢見ちゃいけねぇってことだよ」

「でも相手は薬師だぜ。
 武人なら手ぇ折るだろうが、薬師ならよぉ」


「まぁな。
 しかし、エミリオの宮廷薬師長ユーマならわかるけどよぉ。
 『セツ』なんて名前、聞いたことねぇよ」

背筋が凍った。

この人たちが探しているのは・・・・・・僕。

「一応あの茂みも探しておくか」

足音がこちらに向かう。

僕はとっさにソーマさんに小声で言った。

「ソーマさん、絶対ここから出ないでください」

「セツ?」

「なるべく多くのことを聞き出すようにします。
 それをリュウさ・・・・リュウト王子に知らせてください」

「セツ、駄目だ」

「二人とも捕まってしまう訳にはいきません。
 あの人たちが探しているのは僕ですから」

ソーマさんの手をとった。

「どうか、ご無事で」

告げて茂みから出る。
両手を上げて反抗の意志がないことを示した。

「僕がセツです」

飛び出た僕に驚く二人。

「本当か?」


「はい。
 ガラゴ・ファインドの弟子の薬師、セツです」

「なんだって?」

「ガラゴ・ファインド?」

二人はうんうん頷いた。

「それでか。
 いや、お前さんをさらって来いとのご指名だ。
 拘束させてもらうぞ」

一人の男が僕の手首を後ろで縛った。

「指名をしたのは・・・・・誰ですか?」

「もうすぐ会えるさ」

「タベケ王?」

「・・・・・わかってんじゃねぇか」

「密偵がいるんですね」

「あぁ。
 センドの兵と薬師にな。
 紛れ込んでるのさ」

「おい、喋り過ぎだぞ」

縛られた手を引っ張られる。
ソーマさんのいる茂みからどんどん離れた。

・・・・・・よかった。

タベケの密偵がいることが、どうかリュウさんに伝わりますように。
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