薬と剣

□薬と剣 九話
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抱きたい・・・・・って。
顔が熱い。

「いや?」

聞かれて首を振った。
顔は熱いままだ。

そうか。
好きって言ってもらって、好きって言って、それだけですごくいっぱいになってしまっていた。
その先は何も考えていなかった。

そういうことも・・・・するんだよね。

首は振ったものの何も言葉を発さない僕に、リュウさんは心配そうに言ってくれる。

「無理するな?
 嫌なら、待つから」

優しい、リュウさんの言葉に勇気をもらう。
言わなくちゃ。
伝えないと、不安にさせてしまう。

「嫌じゃないです」

小さな声になってしまったが、ハッキリ言った。
リュウさんの目を見る。

「ぼ、僕・・・・・好きな人と、そ、そういうこと・・・したことなくて・・・」

ダメだ。
目を見て言おうと思ったのに、俯いてしまった。

せめて、とリュウさんの服の裾をギュウッと握る。

「い、いつも無理矢理だったから・・・・こわくて・・・」

一瞬よぎった心の闇が僕の指先を震えさせた。

「でも・・・・リュウさんなら・・こわくないです。
 ただ・・・は、はずかしい・・・・」

服を握っていた手を離された。
リュウさんの大きな手に包まれる僕の手。

「視察から帰ってきたら、ベタベタに甘やかしてやるからな」

ベ・・・ベタベタ?
想像もつかないけれど、リュウさんがすごく優しく笑ってくれるので頷いた。
それを見てリュウさんの笑顔がさらに深まる。

「視察に・・・行くんですか?」

気になったことを聞いてみた。

「あぁ。
 色々な国をまわるから、長くかかるかもしれない」

「どれくらいですか?」

「わからない。
 1ヶ月程度かもしれないし、一年かかるかもしれない」

一年!?

「外交で、色々あるんだ。
 ハッキリしたことが言えなくて、ごめんな」

「いえ、そんな」

リュウさんは王子の仕事がある。
寂しいけど仕方ない、と思ったけど、シュンとしてしまった。


「・・・・・持っててほしい物があるんだ。
 いいか?」

「はい」

何だろう?
リュウさんは懐から何かを取り出すと僕の首の後ろに手をまわした。

プチンとはめられる、ソレ。

ソレは編み上げた上品な細工の銀の鎖だった。
そこに金の指輪がついている。
指輪には城の至る所に飾られていた、エミリオ王家の紋章が彫られていた。
一目で高価な物とわかる。

「リュウさんっ!
 僕、こんな高価なもの預かれません!」

「いや、それ預かってもらうんじゃなくて、お前にあげるモノだから」

「ええっ!?」

くれるの?!
どうして?!

「それ、結婚指輪」

「ええぇっ!?」

ビックリし過ぎて口がポカンと開いてしまう。

「エミリオ王家の人間は男が生まれた時、紋章入りの指輪を作って持たせるんだ。
 で、大きくなって結婚する相手が決まったらサイズを調整して贈る。
 まぁ・・・そんなことはどうでもよくて、一応これ、プロポーズなんだけど」

もう驚きすぎて声も出なかった。
リュウさんはそんな僕を見てクスクス笑う。

「あの、あの、僕男だし」

「知ってる」

「・・・・元奴隷だし」

「知ってる」

「・・・リュウさんの重荷に・・なりたくないです」

泣きそうだ。

「俺も男だし、王子なんて面倒くさい地位についているし、今回みたいな視察で長く帰らないことも多い。
 そんな重荷になりそうな男は嫌か?セツ」

「重荷なんて!!
 そんなこと思ったこともないです!」

「俺もだよ」

息をのむ。

「お前を重荷なんて絶対思えない。
 ・・・・・側にいてほしいんだ、セツ」

リュウさんは僕の前に跪いた。

「俺と結婚してください」

「・・・・・はい」

僕の頬を涙が伝った。
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