薬と剣

□薬と剣 七話
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起きてきたリュウさんが僕の目が少し赤く腫れているのを見て、心配してくれた。
目をこすっただけです、と言ってみたものの、その嘘はすぐ見破られてしまった。

コワい夢を見て、泣いてしまって・・・・・と笑って言ったけど、リュウさんは益々心配そうだった。

僕、リュウさんに心配ばかりかけている。
ダメだなぁ。
リュウさんには笑っていてほしいのに。



朝食はお師さんも来て3人で食べた。

「セツ、今日俺案内するから、城の薬材庫と調合室を見に行かないか?」

「え?いいんですか?」

とても興味があったので、嬉しい。
ニコニコしてしまう。

「あ、でもお仕事・・・・」

「いい。後の2人にやらせとけばいいんだ」

「サボリじゃな」

「ちげぇよ」

「セツ、大丈夫じゃぞ。
 こやつこう見えて仕事だけはできるからの。
 仕事だけは。
 今日サボっても明日働けば大丈夫じゃ」

「俺ができるの仕事だけかよ」

「明日は馬車馬のようにキリキリ働くんじゃぞ」

「腹立つ」

「フフフ」

いつもの二人のやりとりに笑ってしまう。

「お師さんは来ないんですか?」

「わしは長年おったから、今更行ってものう。
 それにまぁ、お前さんの体調も落ち着いたようじゃし、夕刻には森へ帰るからの。
 最後のサービスじゃ」

「サービス?」

僕が首をひねるとリュウさんがお師さんの肩をたたいた。

「サンキュー、ガラゴ。
 セツ、こっちの話だから気にするな」

「・・・・・・はい」

僕は別のことを考えていたけど、返事をした。
やっぱり今日、帰るんだな・・・・・・と。





エミリオ城は大きく3棟に分かれていた。

中央にあるのが王や王子が住んだり執務、会議等する中枢棟。
東にあるのが外交レセプションやパーティーをしたり客室がある社交棟。
西にあるのが薬や武具の研究や兵の訓練場がある鍛練棟だった。
他にも城で働く人が住む棟や、働く人の子どもが通う学校棟等、小さい棟がたくさんあったけど、それらはその大きな3棟から少し離れた所に建てられていた。

僕は東の社交棟に泊まらせてもらっていたので、薬材庫や調合室のある西の鍛練棟へ行くのに、中枢棟を横切る形となった。

途中リュウさんがそれぞれの棟の説明をしてくれたんだけど、つないだ手が気になって、ドキドキして、あんまり聞けなかった。
リュウさん、ホントにスキンシップ好きだな。
今はそれが、少し切ない。

・・・・・・だめだめ、暗くなっちゃ。
もうすぐお別れなんだから、楽しい思い出にしたいよ。

中枢棟を通った時だった。

「あぁ、セツ、体調はどう?」

偶然マナト王子に出会う。

「・・・・・しらじらしい」

リュウさんが小声で何か言ったけど、僕には聞こえなかった。

「はい、大丈夫です」

微笑んで言う。

「もう帰るの?」

「いえ、お城の薬材庫や調合室を見せてもらいに・・・」

「そうなんだ。
 僕もついて行っていい?」

「あ、はい、もちろん」

「セツ!」

リュウさんが珍しくコワい声を出したのでビックリする。

「マナト、ついてくんな」

「お前に聞いてないよ。
 ゲストのセツに聞いてお許しももらったんだから何の問題もないだろう?」

「・・・・・何企んでる?」

「何も」

「嘘付け」

睨み合うリュウさんとマナト王子。

お師さんとの言い合いと違って、なんていうか・・・・・
冷たい感じがする。

僕はオロオロしてしまってリュウさんの服の裾をキュッと握った。
少し驚いたようにこちらを見るリュウさんを見上げる。
兄弟でケンカなんて悲しいよ。

「・・・・・しょうがねぇな。
 マナト、来い」

リュウさんは僕の手を握ったまま再び歩き出す。

「今日のリュウトはわかりやすいなー。
 いつもそうだといいのに」

「うるさい。
 あんまりグダグダ言うと前言撤回するぞ」

「おーコワ」

少し後ろからマナト王子が笑いながらついて来て、僕らは3人で鍛練棟に入った。
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