薬と剣

□薬と剣 六話
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マナト王子は優雅にパンをちぎって口に入れ、言う。

「リュウトはね、ん〜、何ていうか、やんちゃなところがあってね・・・・・」

「あ、昔不良さんだったって言ってました」

「聞いているのか」

カザト王子が驚いたように言った。

「リュウトは君のことを信用してるんだなぁ」

「・・・・・・そうなんですか?」

「仮にも一国の王子だからね。
 しかも王位に一番近い。
 自分から夜な夜な街で暴れてた・・・・なんて言わないよ、普通」

「僕たち三人の中では三番目ということになっているが、僕たちの中で一番決断力と実行力がある。
 後、カリスマ性・・・・とでもいうのか?
 人を惹きつける力を持っているんだ」

「そうそう、だからあいつに王位を継いで欲しいんだよ。
 僕らも、周りも」

「それなのにあいつときたら頑として断るからな」

「それで困っててね。
 どうしたら引き受けてくれるかなぁ、と思ってたら君が現れたんだ」

「えと・・・・・僕が、何か?」

食事の手が止まってしまう。

「リュウトはね、ああ見えて用心深い。
 人をなかなか信用しないんだ。
 幼い頃からあいつの王位継承権に群がる奴らを見てきてるからね。
 街にくり出していたのも身分を隠して付き合えるのが心地よかったからだろう」

マナト王子が言う。

「街で仲のいい奴らにもまだ身分は隠しているらしい。
 そういう関係のあった女も、ほぼ体のみの付き合いだったらしいしな」

カザト王子が続けた。


関係のあった女・・・・・ってそういう意味だよね。
・・・・・どうして僕、ショックなんだろう。


「誰とも一線置いた冷静な付き合いをしてきたんだ、リュウトは。
 ところが君に関しては違うらしい」

「もう逮捕寸前の犯人を殴り飛ばすくらい君のことには冷静でいられない。
 オグム卿の顔面を見ていなければ信じられない話だよ。
 そこでだ」

そこでマナト王子は一度話を区切った。

「セツ、君、リュウトに王位を継ぐよう説得してくれないか」

「えっ!?」

「君の話ならあいつ、たぶん聞いてくれるんじゃないかなぁ」

「この国を助けると思って・・・・・な?」

そ、そんなこと。
戸惑いはあったけど、ハッキリ言った。

「ごめんなさい。お断りします」

リュウさんの人生はリュウさんのものだ。
リュウさんでなくても、人は自分の生き方は自分で決めなくちゃ。
これもお師さんに教えてもらった大切なこと。


マナト王子もカザト王子もビックリしていた。

「君・・・・やっぱりすごいな」

マナト王子が言った。

「即答されるとは思わなかった」

カザト王子も続く。

「すみません・・・・・」

王子への口の聞き方が無礼だったかも。
不安になってうつむいてしまう。

「いや、リュウトが君を気に入ってる訳がなんとなくわかった」
食事はほとんど終わっていた。

マナト王子が卓上のベルを鳴らすとメイドさんが二人入ってきた。

「片付けを」

「はい」

準備を王子二人がしたのは人払いのためだったんだろう。
あんな話の内容だったから当然だ。

マナト王子が銀髪を揺らしながら言う。

「セツ、そういえば君、ガラゴの弟子なんだって?」

「はい」

「じゃあ相当な腕の薬師なんだろうね」

「いえ、そんな」

違法なモノばっかり作ってるかもしれません、とはさすがに言えない。

今度はカザト王子が言った。

「元気になったら城の薬材庫や調合室を見学するといい。
 勉強になる 」

続いてマナト王子も言う。

「城の薬師長にも言っておくよ」

二人ともリュウさんと一緒で優しい。

「ありがとうございます」

笑顔で答えると、二人は笑顔を返してくれた後、部屋から去って行った。
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