薬と剣

□薬と剣 一話
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連れて来たお師さんに傷口と応急処置を見てもらう。

「フム、傷口は広いが深さはいっとらん。変な菌さえ入らにゃ大丈夫だ」

よかった。

「セツ、お前さん、手際がようなったの」

「・・・・・!ありがとうございます!」

お師さんが僕の頭をなでる。

「さて、どうするかの。このままここに置いとく訳にもいかんしの。」

「家へ運びますか?」

「・・・・・仕方あるまい」



今年60歳になった僕の薬師の師匠、ガラゴ・ファインドは白髪に覆われた顔を盛大にしかめた。
お師さんは役人嫌いだ。
ケガした人の身なりはよくお城のお役人が着ている紺の詰め襟隊服だ。

本当は家に連れて行きたくないんだろうな。
でももう日暮れだ。
夜の森は冷える。
傷にひびくのは間違いない。


「僕、馬に荷車を付けて連れてきますね」

「ウム」


僕とお師さんは男の人を荷車に乗せ、森の奥の家へと帰った。



男の人の傷をちゃんと処置した後、ベッドへうつ伏せに寝かす。

「・・・・・そやつが床でええんじゃないか?」

「ケガ人を床で寝かす訳にはいきませんからね」

「・・・・・・わしが床で寝ようかの」

「お師さんを床で寝かす訳にはもっといけません」

「人を老いぼれ扱いするでない!」

「フフフ!」

僕とお師さんはひとしきり笑った後、晩御飯を食べ、今日採集した薬の材料を選別した。



「それじゃ、おやすみなさい」
「ウム、おやすみ」

あいさつをして自分の部屋に入ろうとすると、お師さんに呼び止められた。

「セツ」

「はい?」

「がんばったの」

「・・・はい」

「あまり、無理するでないぞ?」

「・・・・・はい」


バレてた。

「おやすみ」

「おやすみなさい」

2度目のあいさつをした後、今度こそ部屋へ入る。


ベットの側に行って男の人の様子を伺った。

穏やかな寝息だ。よかった。

よく眠った方が傷の治りが早いから、睡眠効果のある枝を粉にしたものを少し燃やし、煙を吸ってもらったのだ。

ベットの脇に両ひざをついてジッと寝顔を見る。

僕、ちゃんと動けた。

するべきことができた。 

今更になって手が震えてきた。

血を見た時、怖かった。
ナイフを突きつけられた時、怖かった。
自分の腕を傷付けたところで信じてもらえるかわからなくて、怖かった。


怖かったけど、動けた。
よかった。

助けることができた。
よかった。

「・・・・・よかった」
ポツリとつぶやく。

僕はもう何もできない僕じゃない。
人のために、してあげられることがある。

怖かったけど、よかった。



床に置いた小さなクッションを枕にして、毛布にくるまって体を横にし、眠りについた。
まだ少し震える手を抱えながら。
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