薬と剣

□薬と剣 十一話
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その日はボーっとしてしまうことが多かったけど、移動の多い日で、ほとんど荷馬車に揺られているだけだったのでよかった。
荷馬車に揺られながら朝のリュウさんの言葉を思い出し、固まったり赤くなったり。

コワい訳ではないけど、緊張するのと、恥ずかしいのとがゴチャ混ぜだ。

・・・・・・一体どんな顔をして行ったらいいんだろう。

「セツ、大丈夫?」

「え?」

僕の隣にいるソーマさんが声をかけてきた。

「さっきから一人でソワソワしてるから。
 そんな様子もかわい・・・・・ゴホン。
 いや、心配で」

「・・・・・ごめんなさい。
 大丈夫です。
 ・・・・ちょっと気になることがあって」

「何々?」

「・・・・・えっと」

どうしよう。
言いたくないような、聞いてもらいたいような・・・・・複雑な気持ち。
リュウさんの名は言ってはいけない。

でも・・・・・。

「・・・・・ソーマさんは好きな人はいますか?」

「えぇっ?!僕!?」

「はい」

「・・・・・す、好きかどうかはわからないけど、気になる奴はいるよ」

「そうですか」

「セ、セツは?
 好きな奴いるの?」

「はい」

「そう」

途端に落ち込むソーマさん。
あんなにハッキリ言うんじゃ、俺じゃないよなぁ、とかブツブツ言ってる。

「ソーマさん、元気出してください。
 ソーマさんにもきっと好きな人できますよ。
 その気になる人、これから好きになるかもしれないじゃないですか」

「・・・・うん。ハハハ。
 まぁそれ、もう絶対不毛そうだけど」

「えっ?!」


「うん、セツは気にするなよ・・・・・
 ハハハ」

乾いた声で笑うソーマさん。
辛い恋をしているのかもしれない。
僕はなんて無神経な質問をしてしまったんだろう。

オロオロしている僕を見て、ソーマさんが頭を撫でてくれた。

「気にすんなって。
 深入りする前でよかったよ。
 僕気持ちの切り替え早いから大丈夫!!」

「ソーマさん・・・・・」

「だぁっ!
 そんなウルウルした目で見んなよっ!」

「ご、ごめんなさい」

「いや、怒ってる訳じゃないから!
 ちょっと待って!
 一旦落ち着こう」

スー、ハー、と深呼吸するソーマさん。

その時荷馬車がガタンと揺れて、ソーマさんが僕の方へ倒れて来た。

僕が押しつぶされそうになるのを両腕を突っ張って防いでくれた。
ちょうど腕と腕の間に収まって、僕は何も痛くなかった。


「ありがとうございます」

上にいるソーマさんを見上げ、微笑んでお礼を言う。
何故かソーマさんはプルプル震えていた。

「ソーマさん?」

「お」

「お?」

「落ち着けるかぁぁぁっ!!!」

ソーマさんの絶叫が辺りに響いた。




「頭冷やしてくる」

とソーマさんは別の荷馬車に乗りに行ってしまったので、その日僕はほとんど一人で過ごし、先程までと同じように固まったり赤くなったりしたのだった。
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