薬と剣

□薬と剣 五話
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「頭部に衝撃を受けた脳震盪じゃな。
 それと腹の痣が熱を持って腫れておる。
 口の中が切れておるのと、手首の擦過傷はすぐに治るじゃろう。
 ・・・・・・外傷よりも、心の方が気になるわい」

「心?」

「そうじゃ」

俺はセツとガラゴを連れ、城に帰って来ていた。
ガラゴは軽傷ですぐに意識を取り戻した。
コトの経緯を説明すると俺を怒鳴り散らし、その後セツを診ているところだ。

「お前さん、セツの焼印を見たじゃろう?」

「あぁ」

性奴隷を示す三角が縦に三つ並んだ焼印。

「売られたのかさらわれたのかはわからんがの。
 この子は幼い時期に辛い目にあい過ぎとる」

両親を知らないセツ。
一体どれほどの間、そんな扱いを受けていたのか。
その、小さな身体で。

「わしが会った時にはの、セツには表情がほとんどなかったんじゃ」

ガラゴが話しはじめる。

「己の感情を殺さなければ生きられぬ、そんな環境で6歳まで育っとる」

ガラゴの眉根がよった。

「いつ・・・・・会ったんだ?」

「わしが宮廷薬師を辞め、用事でタベケの宿に泊まっておる時にな。
 近くに夜盗が入ってケガ人が出た、治せる者を探しているとお呼びがかかったんじゃ。
 行った時にはもう亡くなっておったがの。
 その者らの側におったのがセツじゃ」

話で聞いた優しい夫婦のことだろう。

「悲しみのどん底におったのに泣くでもなく叫ぶでもなく無表情での。
 
 ・・・・・だがの、その無表情のまま『どうか弟子にしてください』と縋るんじゃ。
 『このままの自分が許せない』『誰かを助けられる自分でありたい』とな。
 引き取って笑ったり涙したりするようになるまで3年かかったわい。
 夜中に悲鳴をあげて起きたり、作業中に遠くを見つめて反応が無くなったりの。
 今では考えられんじゃろう?」

優しく柔らかく笑うセツ。
ガラゴを助けてるの言葉に涙したセツ。
ガラゴの救出に必死について行くと縋ったセツ。

そうなるまでに、どれほどのモノを乗り越えなければならなかったのか。

「セツはそんな過去を恨むんでなく、自分を悔いて、恥じておる。
 セツはなにも悪ぅないのにのう」

タベケの話をした時、しゃがみ込む程しんどそうだったセツ。
胸が痛い。

「この子には幸せになってもらいたいんじゃ」

ガラゴがしみじみ言った。

ベッドに寝ているセツの頭を優しく撫でる。

「自分を悔いて責めてはいかんぞ、セツ。
 早く目を覚ますんじゃ・・・・・」

ガラゴの目に涙が光った。

セツは3日間、目を覚まさなかった。
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