薬と剣

□薬と剣 四話
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外が明るくなりはじめた。

ガラゴはまだ帰ってこない。


俺もセツも横にはなったが、たぶんお互い一睡もしていない。


「すまない、セツ。俺のせいだ。
 俺が書状を頼んだりしたから。
 俺、今日城へ行ってくる」


やはり寝ていなかったのか、すぐ言葉が返ってくる。

「僕も行きます」

「・・・・・いや、もしものことがあったら危険だ。
 セツは待ってて・・・・」

「待ってるだけなんて嫌です!」

セツは悲痛な顔でこちらを見た。

ガラゴにとってそうであるように、セツにとってもガラゴが大切な存在であるということがわかる。

しかし・・・・・

「セツ。俺はお前を危険な目にあわせたくない」

エゴかもしれない。

でもセツがそうしたいからといって簡単には引けなかった。

セツは俺の顔をジッと見てうつむいた。

「僕・・・・・お師さんに弟子入りする前に、とても優しい夫婦に引き取られたことがあったんです」

ポツリと話出す。

「その人たちと過ごせたのは1ヶ月程でしたけど。
 僕はあの人たちと出会わなければ・・・・・」

座った背を丸め、服の裾をキュッとつかむセツ。
心細そうなその様子に胸が痛む。

俺はセツの前にひざまづき、手を握った。

「セツ・・・・・」

何と言っていいかわからない。

握ったセツの手が少しゆるみ、再び話し出す。

「ある日・・・・そこに夜盗が入って・・・・・・
 大きい物音がして・・・・・
 僕がかけつけた時には夜盗は逃げた後で・・・・
 二人は血の海にいました」

ギュッと目をつぶるセツ。

「二人はその時、まだ息があったんです。
 でも僕、何もできなくて・・・・・動けなくて・・・・・
 大きな音を聞いた街の人たちが来る間に息を引き取ってしまって・・・・・」

「セツ、セツ、もういい」

「僕何もできなかった僕が許せないんです。
 もうあんな思い、したくない。」

セツは目を開け俺の目をみつめた。

「僕が行っても、何も力になれないかもしれない。
 でも、何もしないなんて嫌なんです!」

目に涙がたまる。
セツの涙は、いつも綺麗だ。

「足手まといならその時置いて行ってくださったらいいです!
 ・・・・・僕も、僕も行きます・・・・・」

最後の方は涙で声がかすれていた。



日が、昇ってきた。



「行こう、セツ」

セツの思いが痛い。
そんな辛い目にあって尚、まっすぐ前を向けるセツに益々愛しい想いが溢れる。

「・・・・・はぃ」

セツは小さく、でもしっかり返事をした。
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