薬と剣

□薬と剣 一話
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僕はいつものように薬の材料を採集しに森を散策していた。

今日はマイオスの実が5個も見つけられたぞ、お師さん喜ぶかなぁ、とウキウキしていた帰り道。

・・・・・・なんだろう?木々がざわついている・・・・?

嵐が来るんだろうか。


・・・・・ちょっと違うな。

こんなざわつき方、初めてだ。

早く帰ろう。そう思って足を早めようとした、その時。

うめき声が聞こえた気がして振り返る。

「・・・・・誰?」

問いに返る答えはない。

怖々と声が聞こえたと思われた茂みへ足を踏み入れた。

「っっっ!!!」

そこには肩から背中に大きな傷を負った男の人がうつ伏せに倒れていた。

「止血!!」

思わず叫んで採集バックから止血に効く葉を取り出す。
その葉を傷口に当て、少し強く押さえた。

「〜〜〜っ!痛ぇっ!」

男の人は呻いたが僕は構わず押さえ続けた。

「ジッとしててください!とりあえず止血しますから!」

男の人に言いながらも、僕は押さえ続けた。



どれくらい経っただろう。

大きい傷口だったが血はとりあえずは止まったようだ。
でもこんなのは所詮応急処置でしかない。

「お師さんを呼んで来てちゃんと手当てするのでジッとしててください」

言って、傷口を押さえていた手をどける。

すると男の人はうつ伏せの姿勢から素早く身を翻し、あっと言う間に僕の背後に回った。
どこに持っていたのか首筋にナイフを突きつける。

「お前何者だ?」
低い声。

「・・・セツです。」

「名前じゃねーよ。・・・追っ手だろ?」

「違います」

「・・・・じゃあ俺のことはほっとけ」

「そんな傷負って何言ってんですか」

「血さえ止まれば、なんとかなる」

「血だけは、止まっていたんですよ、さっきまでは」

「?」

「ジッとしててくださいって言ったでしょう?
 また開いてますよ、傷口」

「?!」

「止血と部分麻酔効果のある葉で押さえてましたからね。
 傷口開いたの気付かなかったんでしょう?」


僕はゆっくり振り返ってその人の目を見た。


緑色の綺麗な目。
金髪の前髪が少し目にかかっている。
眼光は鋭く僕を射ている。


この人は、手負いの獣だ。

手負いの獣の治療をするには焦ってはいけない。
まず、安心させること。

お師さんと森に習ったことが心に浮かぶ。


「僕はこの森に住む薬師です」
採集用に使う小型ナイフを取り出す。

男の人が身構えたのがわかった。

かまわず僕は自分の腕を傷付けた。

「っ!何をっ!?」

そこにさっきの葉をあてる。
「見ててください」


小さな傷の血はすぐに止まった。

止まったのを男の人に見せた後、軽く腕を振る。
するとすぐにまた傷口が開いて血が出てきた。


「ね?」

「・・・・・・」

「止血と痛み止めの速効性はあるけど、根本的な治療にはならないんです、この葉っぱ」

「・・・・・・・」

「お願いですから、ジッとしててください。
 僕に治療させてください」

目を見て言う。


信じて。僕を信じて。



やがてその人はやれやれと言うようにフッと笑った。

「すまんがよろしく頼む」

その笑顔がとても精悍で、綺麗で。

何よりも信じてもらえたようだということが嬉しくて僕も微笑んだ。


その人が少し驚いたような顔で僕を見る。



なんだろう?

僕の顔に何か付いてるのかな?

少し恥ずかしくなって来た時、その人はドサリと倒れてしまった。

「大変!!」

僕は慌ててもう一度応急止血した後、お師さんを呼びに走った。
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